よみタイ

畠山理仁「アラフォーから楽しむ選挙漫遊記」

NHKの出口調査も有権者との握手もなし? 新型コロナウイルス禍に行われた熊本県知事選挙、現地ルポ

蒲島氏の選挙事務所内。通常と違い客がいない。(撮影/畠山理仁)
蒲島氏の選挙事務所内。通常と違い客がいない。(撮影/畠山理仁)

石原都知事を超える「選挙運動ゼロ」

 いったん離脱して、蒲島候補の選挙事務所を訪ねた。事務所の横には大きな看板とのぼり旗が掲げられていた。道路側はガラス張りだが、外から事務所の中の様子は見えない。
 入り口に置かれたアルコール消毒用のポンプで手を消毒してから声をかけると、相談役の村田信一さんが応対してくれた。

 事務所の中は、いわゆる選挙事務所のつくりと変わらない。壁面いっぱいに候補者の勝利を願う「為書き」や推薦状が張られている。応接用の長テーブルとパイプ椅子もある。神棚も設けられている。ただし、通常の事務所と大きく違って、お客さんがいない。

「今回は候補者本人が選挙運動をしないという大きな決断をしました。出陣式もない。選挙カーも準備はしましたが、一切走らせていません。幻の選挙カーです。『選挙の7つ道具』のうち、使ったのは選挙事務所の標札だけです。候補者は選挙中に一度もマイクを握っていません」(村田さん)

 現職の候補者がこんな思い切ったことをするのは、おそらく初めてだろう。

 私はかつて、似たような自粛ムードの選挙を取材したことがある。2011年3月24日告示、4月22日投開票の東京都知事選挙だ。

 当時、4選を目指していた石原慎太郎氏もほとんど選挙運動を行なわなかった。同年3月11日の東日本大震災と東京電力福島原子力発電所事故により、都知事選全体が「自粛ムード」に包まれていた。
 この時、現職の石原氏は震災対応のため、知事としての公務を優先したが、それでも最終日には一度だけ防災服姿で街頭演説をしている。その結果、石原氏は4選を果たした。
 今回、蒲島氏はこの時の石原氏を超えている。本当に「選挙運動ゼロ」なのだ。

「にぎやかな遊説がなくなったのは異例中の異例ですが、やむをえません。情報発信はテレビでの政見放送や選挙公報、政策ビラ、ウェブサイトにアップする動画やSNSで行っています。“御大将(候補者)”がいない戦いなので、陣営の危機感は強いです。だからみんなが一生懸命、声がけや電話かけをしています。そういう意味では、周囲はいつもより盛り上がっていますね」(村田さん)

 通常の選挙では、開票日の夜に結果が判明すると、候補者は支援者の前で挨拶をする。勝った候補はバンザイ、負けた候補は敗戦の弁を述べる。今回はどうするのだろうか。

「今回はNHKさんが出口調査をしないと聞いているので、大勢が判明するのがいつになるのかわかりません」

 NHKが出口調査をしない!? 新型コロナウイルスが選挙に与える影響は計り知れない。

「ただ、民放さんは出口調査をされるそうなので、結果が判明したら何らかの挨拶はします。その場合は室内ではなく、屋外の駐車場で短くやる予定です。ただ、明日の夜の天気は雨の予報なんですよね……」

 屋外の会場も、椅子と椅子の間隔を1.5m以上開けるなど配慮する。集会も短縮。来場者の数も事前に絞り、最小限度に抑える。
 新型コロナウイルスは、これまでの選挙とは違う戦い方を両陣営に強いていた。

2011年の都知事選。石原氏の街頭演説は最終日の1回だけだった。(撮影/畠山理仁)
2011年の都知事選。石原氏の街頭演説は最終日の1回だけだった。(撮影/畠山理仁)
1 2 3 4

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

週間ランキング 今読まれているホットな記事