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復讐と恋と少年少女──『敵討義女英』にみる「敵討」と女性表象

衆道や遊郭はミソジニーがなくては成立しない

 ここでふと思い出すのは、仕事でとある番組のゲストで江戸文芸が好きなのだと話した時、出演者に「江戸時代って、陰間茶屋(男色の売春宿)なんてあるほど性におおらかだし、遊郭は現代の風俗にくらべて女性優位な世界で、性差別なんてなかったんだよね」と言われ、反応に困った経験だ。衆道や遊郭はむしろミソジニー(女性嫌悪)がなくては成立しないし、同性だろうが異性だろうが対等な恋愛関係ではない。ちなみに、衆道には「念者」と呼ばれる性器を挿入する年長者と「若衆」と呼ばれる未成熟な少年との間に主従関係があった。そして、1644〜52年作者不詳の『田夫物語』という仮名草子では「女道の卑しく若道(衆道のこと)の華奢(上品)なる道」と、男色と女色の優劣を論じられている。最終的には生殖面から女色を支持するのだが、女色=田舎者の趣味、男色=風流と、その根底には強烈なミソジニーと家父長制が横たわっているのは明らかだ。

 この小しゅんの顛末も、当時の時代背景においては読者の胸を打つ悲劇でも、現代ならば読者はただ不快感をおぼえるだけの作品と評されるかもしれない。そもそも、女性読者を意識して恋愛作品が増えたという文学史的な流れも、今となっては「女性は恋愛ものが好き」というのも偏見に満ちたステレオタイプだと私は思う。とは言っても、それまで女性がフィクションの恋にすら登場できなかったことを踏まえると、小しゅんは前近代の日本文学史の流れに一石を投じた女の子だったといっても過言ではないだろう。強固なパターナリズムに翻弄された、江戸時代の少年少女の物語。読者はどんな感想を抱くのか、その時代を写す鏡になるかもしれない。

【注釈】
(*1)春日太一「日テレもフジテレビも、『忠臣蔵』のドラマを作れなくなった『根本的な理由』」(マネー現代)。
また2015年より、全国の義士親善友好都市交流会議はNHKに対し、忠臣蔵の大河ドラマ制作、2020年の東京五輪を予定していた年に放送希望する署名活動をしていた。(神戸新聞ネクスト)

(*2)楚満人について、曲亭馬琴は「敵討の臭草子流行により時好に称ひて折々あたり作ある」と『近世物之本江戸作者部類』で、式亭三馬は「敵討物を著作して大に行はる」と『式亭雑記』で評している。

(*3)家を取りまとめる権限が男性である父親にあること。ただし、この場合の家父長制は近代日本のそれとは峻別する必要がある。封建社会とくらべ、近代の家父長制とジェンダー規範は、当時の西洋的思想・規範を輸入し、義務教育や高等教育にそれを取り込み、家だけでなく国家を形成する柱のひとつとされていた。いずれにしても男尊女卑的制度であるものの、近代国家の概念の有無は明確にするべきだろう。これについては渡辺周子氏が『〈少女〉像の誕生―― 近代日本における「少女」規範の形成』(新泉社 2007)で、明治期女子教育研究の視座から指摘されており、私もそれに準じている。本連載で取り扱っている江戸時代までは「娘」等と呼ばれていた若年女性が、明治時代から主に「少女」と呼称されるようになったのも、近代化の影響だろう。

(*4)たとえば、小説家の柚木麻子さんはハロプロヲタクを公言され、2020年1月に発売された雑誌『ダ・ヴィンチ』2020年2月号「ハロプロが女の人生を救うのだ!」特集号(KADOKAWA)には「だから私がハロプロが好き」というコーナーにエッセイを寄稿されている。なお同企画には、犬山紙子、菊池亜希子、大森靖子、野中モモ(敬称略)も寄稿されている。30代以上と書いたのは、1999年の「LOVEマシーン」の大ヒットをリアルタイムで見て、それ以降も自分でCDを買ったりライブに行けたりした世代に該当するためである。

【参考文献】
水野稔校注『日本古典文学大系59 黄表紙・洒落本集』(岩波書店 1958)
板坂則子『江戸時代 恋愛事情 若衆の恋、町娘の恋』(朝日新聞出版 2017)
氏家幹人『かたき討ち 復讐の作法』(中公新書 2007)
谷口眞子『武士道孝――喧嘩・敵討・無礼討ち』(角川学芸出版 2007)
白倉敬彦『江戸の男色――上方・江戸の「売色風俗」の盛衰』(洋泉社新書y 2005)
木村薫「南杣笑楚満人の黄表紙―『仇討孝行軍』翻刻―」(『専修国文』104号 P.23-57)
『角川古語大辞典』第一巻(角川書店 1982)

 連載第7回は4/26(火)公開予定です。

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児玉雨子

こだま・あめこ
1993年神奈川県生まれ。作詞家、作家。明治大学大学院文学研究科修士課程修了。アイドル、声優、テレビアニメ主題歌やキャラクターソングを中心に幅広く作詞提供。著書に『誰にも奪われたくない/凸撃』(河出書房新社)。

Twitter @kodamameko

(写真:玉井美世子)

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