2022.2.22
流行語ほんま草生い茂って山──『金々先生栄花夢』の一部を超現代訳してみた

wとワロタと草
先日、平成ポップカルチャーについて対談するという企画があった。その際、ふとネットスラングと流行語について触れる場面があった。私が十代の頃は文章に「www」をいっぱいつけたり、「w」が発音できない話し言葉では「ワロタ」と言ったりしたのだが、その後は書き言葉でも話し言葉でも「草」を使っていた。(*1)しかし令和キッズはもはや「草」とも言わないかもしれない。「笑い方すらわからない電脳社会に声出してワロタ(真顔)」などとインターネット老人の痛いやりとりをした。今から対談原稿を読むのが恐ろしい。
流行語とは、「ある一時期に、多くの人々の間で興味をもって盛んに使用される単語や句」と『日本国語大辞典』に説明されている。たまに私たちは、流行語から平成や昭和を思い出して懐古に浸ることがある。当然、私たちが生まれるずっと昔、今や誰からも使われることも、思い出されることさえなくなってしまった、当時の流行語とみとめられる表現も存在する。特に江戸時代は約200年もあったので、ちょっと本やネットで調べるだけでも色々と先行研究や指摘が多い。
たとえば辞書編集者の神永曉『さらに悩ましい国語辞典』には、ふたつの江戸時代の流行語を紹介している。現代の口語では「さむっ!」「うるさっ!」と形容詞の語幹のみを使った強調表現があるが、1809〜13年刊の『浮世風呂』という滑稽本には「ヲヲ、さむ」など、同様の用法は江戸後期には既に見られていたそうだ。さらに現代語の「ディスる」や「事故る」のように、名詞+「する」の形も実は歴史がある。江戸中期から後期にかけて刊行された洒落本の中には「茶漬る」という表現が散見されるのだ。ちなみにこれはそのまま「茶漬けを食べる」という意味である。(*2)
この二語はどちらも略語だが、短縮されて耳ざわりが新鮮なことばだけが流行語とみなされるわけではない。「江戸川意味がわか乱歩」「どうしよ平八郎」など、わざわざことばを長くする表現もある。もちろん、この時の江戸川乱歩や大塩平八郎は、ただおもしろい語感のために召喚されていて、「意味がわからない」ことや「どうしよう」という感情に、意味を足す存在ではない。日本語は母音がべったりこびりついた言語で、英語のようにリズミカルじゃない……なんて話を、作詞家やアーティスト達の間で語り合う時がある。実際、細かいメロディに日本語の歌詞を書くのはかなり違和感がある。英語や韓国語の歌のような跳ねた感じを作るのはなかなか難しい。ただ、しかし、日本語はべったりした言語でありながら、意味を超越した語感重視のスラングも日々生まれているのだ。