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流行語ほんま草生い茂って山──『金々先生栄花夢』の一部を超現代訳してみた

ブーストがかかったような流行語の連打

 これだけではない。栄華を極める金兵衛(金々先生)は遊郭に通い詰め、ある節分の日に「もう豆まきは古い」と幇間の万八にそそのかされ、豆の代わりに金銀を振り撒く場面も紹介したい。

(金々先生)「ふくは内、おにはそと。/\。」
(五市)「これはありがた山のとんびからす。これおもつて検校になり山と出かけやう。」
(万八)「これはきびしい。さつまやの源五兵衛ときて居る。とんと梅が枝もどき。ありが/\」

超現代語訳:
(金々先生)「福は内、鬼は外、鬼は外」
(五市)「えーすごいありがたすぎる。まじで神。これ検校になれちゃうレベル」
(万八)「や、えぐいて。源五兵衛みisある。こんなん俺、まんま梅が枝やん。はーありがてぇありがてぇ(手を合わせる絵文字)」

五市、万八、おそらく禿や若い遊女はお金に食らいついているが、右上の遊女はそっぽ向いている。彼女にとって金兵衛は下品な迷惑客なのだろう……。
五市、万八、おそらく禿や若い遊女はお金に食らいついているが、右上の遊女はそっぽ向いている。彼女にとって金兵衛は下品な迷惑客なのだろう……。

 このシーンはブーストがかかったように流行語が多い。五市ぐいちは座頭(頭を剃った視覚障害者で、琵琶や三味線を弾いたり、あんまなどを生業にした人たちのこと)であり、「検校」というのは、江戸時代まで存在した男性視覚障害者の互助組織である当道座における最高位だった。この時代になると官金という上納金を払えばそれになれたとも言われている。

 彼が言う「ありがた山のとんびからす」は先述の「〜山」を使った上で、「とんびからす」を語感のために追加。「江戸川意味がわか乱歩」と同様のノリだろう。そして先に触れた「〜山に出かける」が同じ使い方で再登場。よほど当時流行っていた表現なのだろう。現代の若者言葉では「すごく」が「すごい」と形容詞化するので、あえてそう訳してみた。

 そして、幇間(遊郭で客の機嫌を取って場を盛り上げる仕事)の万八が言う「きびしい」は、「たいしたことだ」というようなポジティヴな意味で使用されている。このようにネガティヴな言葉が文脈によってポジティヴに転化する言葉も若者言葉には多い。今回は予想を超えているさまを表現する若者言葉「えぐい」を使い、より口語的にしてみた。源五兵衛はにわか金持ちの意味として使われており、その後に続く梅が枝は浄瑠璃「ひらかな盛衰記」に登場する遊女で、彼女のもとに二階から小判がばらばら落ちてくるシーンがある。「ありが/\」と語感を繰り返す表現は、本作では他にも「おそろ/\」と使われている。先に触れた、神永曉が指摘した語幹のみの強調表現の発展形だろうか。

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児玉雨子

こだま・あめこ
1993年神奈川県生まれ。作詞家、作家。明治大学大学院文学研究科修士課程修了。アイドル、声優、テレビアニメ主題歌やキャラクターソングを中心に幅広く作詞提供。著書に『誰にも奪われたくない/凸撃』(河出書房新社)。

Twitter @kodamameko

(写真:玉井美世子)

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