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流行語ほんま草生い茂って山──『金々先生栄花夢』の一部を超現代訳してみた

「〜山」という流行語

 語感を優先したスラングといえば、私は1775(安永4)年の恋川春町作・画『金々先生栄花夢きんきんせんせいえいがのゆめ(*3)がすぐに挙がる。先述の滑稽本『浮世風呂』より、やや時代は遡る。本作は第3回の記事でも軽く触れたが、現代の漫画のように絵と文字を使った大人向けの草双子「黄表紙」というジャンルの嚆矢となった作品だ。田舎出身の金村屋金兵衛は、目黒不動名物のあわもちが出来上がるのを待つ間のうたた寝の夢の中で、金持ちの家の婿となり「金々先生」と呼ばれ栄華を極める。しかし、何もかもがつかの間。派手に遊びすぎて勘当されてしまったところで目が覚める。人生は一炊の間の夢のようだ、というオチだ。

 タイトルの「金々」がそもそも当時の流行語で、当世風(当時の「今どき」といった意味)の身なりでイケているようすを指すように、本作はこの「当世風」というのがキーワードになる。恋川春町によって書かれた絵では、服装や身のこなし、そして文章では流行語や遊里での遊び方などが、冴えない田舎者の金兵衛の憧れとして描写されている。

 本作では「〜山」という流行語が何度か登場する。たとえば、金兵衛が目黒不動のあわもち屋に入るシーンだ。

(金兵衛)「なんでも江戸へで、番頭株ばんとうかぶとこぎつけ、そろばんの玉はづれお、しこため山と出かけて、おごりおきわめましやう」

超現代訳:
(金兵衛)「なんでも江戸に出てきて、番頭というような地位にまでこぎつけ、帳面に記されていないような役得の儲けをしこたま貯め散らかしたんだし、贅沢しまくりアゲてブリ突き上げるよ〜!」

出典:水野稔校注『日本古典文学大系59 黄表紙・洒落本集』(岩波書店 1958)
出典:水野稔校注『日本古典文学大系59 黄表紙・洒落本集』(岩波書店 1958)

 この「しこため山」は「しこたま貯める」を縮めた「しこため」に、当時の流行していた「山」という接尾語がついた表現だ。また「と出かけて」は「〜山」のあとに続きやすく、ある行動を起こそうとする、勢いのあるニュアンスを足す表現だ。現代語では「〜し散らかす」が、最も近い勢いがあるだろう。さらに、巷で流行している整形男子アレン様のクリマン語』(*4)に見られる謎の勢いも加えて、上記のように超現代語訳してみた。

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児玉雨子

こだま・あめこ
1993年神奈川県生まれ。作詞家、作家。明治大学大学院文学研究科修士課程修了。アイドル、声優、テレビアニメ主題歌やキャラクターソングを中心に幅広く作詞提供。著書に『誰にも奪われたくない/凸撃』(河出書房新社)。

Twitter @kodamameko

(写真:玉井美世子)

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