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昼は街のお菓子屋さん、夜はパンクでロックな優しいピエロ。これがニューロティカ・あっちゃんの“普通の生活”

お菓子屋をやりながらバンドもやるのが“普通の生活”

 バンドブームは1990年代半ばに向かう頃、急激に収束していく。ファン離れは、レコード・CDの売り上げやライブ動員数の減少という形で現れ、メジャーレコード会社から見切りをつけられてインディーズに戻ったバンドもいれば、解散してしまったバンドもいた。
 1990年に日本コロムビアからメジャーデビューを果たしたニューロティカも、1995年には契約解除となった。
 1990年発表のメジャー初アルバム「よっしゃ、よっしゃ、よっしゃーぁ」はオリコン最高16位となるほどの売り上げを記録したが、1994年にリリースしたメジャー最後のオリジナルアルバム「崖っぷちのDANCE~前進 前進 また前進~」、そして1995年のベストアルバム「THE BEST OF NEW ROTEeKA~よりぬきニューロティカさん」はともにオリコン圏外。
 人気のかげりは明らかだった。
 そして1995年末には、修豚をはじめとするインディーズ時代の苦楽をともにしたメンバー3人が脱退。1998年にはついに、インディーズ時代からの継続メンバーはあっちゃん一人だけになった。
 その頃のニューロティカは、いつ解散してもおかしくないような状態に見えた。

 それでもあっちゃんはメンバーを補充し、バンド活動を継続。そのおかげでニューロティカは、一度も解散することなく今年1月で結成39年目を迎えた長寿バンドとなったわけだ。
 どうしてあっちゃんは、踏みとどまることができたのか。
 その理由については次回以降に詳述するが、あっちゃん個人に焦点を合わせるなら、この藤屋の存在が大きかったことは間違いないだろう。バンドをやめても藤屋があるという安心感が、逆に、絶対バンドだけはやめないという意志につながったのではないだろうか。

あっちゃんで三代目となる老舗菓子店。店の奥には、ニューロティカの暖簾も。(撮影/木村琢也)
あっちゃんで三代目となる老舗菓子店。店の奥には、ニューロティカの暖簾も。(撮影/木村琢也)

「おばあちゃんが始めて父親が引き継いだこのお店は、僕で三代目。小学生のときから手伝っていたので、僕にとってここで働くことは当たり前なんです。バンドがメジャーデビューした頃は、家を出て一人暮らしをしていましたけど、夏祭りとか年に2、3回の忙しいときには、やっぱり実家に戻って店の仕事を手伝ってました。メジャーバンドといっても、ツアーやレコーディングの最中以外は、正直言ってけっこう暇な時間があったんです。
 だからどっちかって言うと、今のようにお菓子屋をやりつつバンドもやるっていうのが、僕にすれば“普通の生活”なんです。
 僕だけではなく、ほとんどの人がバンドをやりながら他の仕事も持って生活していますからね。今はアイドルだって、他の仕事しながらっていう人も多いんだし」

 2003年に父親が病に倒れてから、あっちゃんは藤屋の“若旦那”として、母親と2人で店を切り盛りしてきた。そして高齢になった母が施設暮らしとなった今、あっちゃんは店舗兼住宅である藤屋の2階に暮らし、お店の業務を一人でこなしている。1階の店舗の棚にたくさん並べられた商品のお菓子はすべて、あっちゃんが自ら出向いた問屋で仕入れ、並べたものだ。

 そしてニューロティカは今も、インディーズで精力的な活動を続けている。
 結成当初から「みんなで歌おうパンクロック」というスローガンを掲げるニューロティカのステージは、いつも底抜けに明るく楽しい。ピエロの扮装のあっちゃんが歌う、笑えて泣けるパンクロックに魅了され続けているファンは数多い。
 人一倍浮き沈みの激しいバンドだから、ニューロティカとしての活動もきっと人知れぬ苦労が多かったはずだ。
 だが、あっちゃんに苦労話は似合わなさそうなので、代わりに「バンドで遊び続けるため、『藤屋』で仕事をしている感じですか?」と聞いてみた。
 その答えは、ノーだった。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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