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村井理子「犬と本とごはんがあれば 湖畔の読書時間」

普通が一番幸せという言葉の重み-先が見えない閉塞感のなかで

 すっかり春になり、リビングの窓から見える山々は美しいし、庭木はたっぷり葉をつけだしたし、一年で最も快適な季節になったのだけれど、爽やかな風に当たってゆっくりコーヒーでも飲みましょうかという気分にもならない毎日だ。原因はわかっている。答えを書く必要もないかもしれないが、不自由な生活を始めてから一年以上経過し、先が見えないからだ。こんなときは脇目も振らず仕事に打ち込めばいいとわかってはいるものの、こんなに中途半端な状況で、こんなに混乱した気持ちで、仕事に没頭できる人がどれだけいるだろうと思わずにはいられない。

 何という閉塞感、なんという徒労感。普通でいられたあの日が懐かしいなんて気持ちになってしまう。私の日常はいつ戻るのだろう。友人たちと、心地よい風に当たりながらたわいもない話ができるようになるのはいつなのだろう。どこかにふらりと行ってみたい。知らない場所で座ってのんびりしてみたい。そんな日常が、こんなに難しくなるなんて。

 こんな私を一気に明るくしてくれたのは、『日本の住まいで楽しむ 北欧インテリアのベーシック』だ。遠出できなくなり、それであればと家のなかを改造しはじめた私がうきうきで手にした一冊で、この本は北欧インテリアの紹介がメインではなく、その暮らしの工夫を著者ならではの視点で詳しく伝えている。日本の家屋に北欧インテリアを取り入れる工夫がちりばめられているので、無理がなく、さりげない。著者のエッセイが豊富に掲載されているのが大きな特徴で、その筆致は彼女の姿そのもので、穏やかでシンプル。著者が時間をかけて作り上げた家の写真からは、温かさ、快適さが伝わってくる。

 著者は「普通の家がいい」と本書の冒頭で書いている。ああ、わかる。わかります。普通の家はとてもいい。私が作りたかったのは、私が住みたいのは、普通の家だ。両親の気配のある家、兄弟姉妹の賑やかさが聞こえてくる家、犬や猫や鳥の気配のある家、おばあちゃんの穏やかさ、おじいちゃんの厳しいけれど優しい笑顔のある家。いつも、何か美味しい食べものがある家、冷えた麦茶が美味しい家。そんな家に憧れていた。そんな家に生まれたら、今の私はもう少し素直だったんじゃないだろうか。普通というのは、実はとても幸せなのだろう。

森百合子著『日本の住まいで楽しむ 北欧インテリアのベーシック』(パイインターナショナル社/2021年3月)
森百合子著『日本の住まいで楽しむ 北欧インテリアのベーシック』(パイインターナショナル社/2021年3月)
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村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な連載に「村井さんちの生活」(新潮社「Webでも考える人」)、「犬(きみ)がいるから」(亜紀書房「あき地」)。主な著書に『兄の終い』(CCCメディアハウス)、『村井さんちの生活』(新潮社)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』(亜紀書房)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)など。主な訳書に『サカナ・レッスン』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』など。
最新刊は、家族の実話を描く書き下ろしのエッセイ『全員悪人』。すでに好評、話題となっている。

ツイッター:@Riko_Murai
ブログ:https://rikomurai.com/

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