よみタイ

駄菓子の話ができない

 ピンク色に染まった大根を、友だちはよく買っていたが、その味がどんなものかは知らない。「モロッコヨーグル」は、テレビで存在を知ったが、友だちについていった駄菓子屋にあったかどうかも記憶にない。薄暗い店内に、透明で四角い形をしたものに赤い蓋がついた容器がいくつか並んでいたのは覚えている。薄暗いなかでその蓋の赤い色がとても目立っていた。
 そのなかには、タコかイカかはわからないが、イボがついた茶色い色の足が入っていた。子どもながら、それを見てホルマリン漬けの標本を思い出したりした。他の容器にも、串に刺した茶色くて平たいものや、ピンク色の薄くて軽いおせんべいがきれいに並べられて入っていた。そのおせんべいは、お祭りのときに屋台で、みずあめにくぐらせたあんず飴を買うと、それをのせてくれるせんべいと同じだったので、味といえるような味はなかったが、どういうものかは知っている。たくさんの駄菓子があるなかで、私が知っている味はほんの少ししかないのだ。
 

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 「うまい棒」や「ハッピーターン」も、私が子どものときはなかったけれど、今スーパーマーケットでも見かける。
「これが話にきいたうまい棒か」
 と思いつつ、一度も食べたことはない。最近テレビで、「利きうまい棒」をやっていたが、それを観ていて、
「みんなわかるほど、うまい棒を食べているんだな」
 と感心してしまった。どんなものであれ、味覚の記憶は数が多いほうがいい。親の方針だから仕方がないのだが、あのとき意地を張らないで、親の提案を素直に受け入れ、駄菓子屋で駄菓子を買ってもらえばよかったと、今になって悔やんでいるのである。

次回は2月14日(水)公開予定です。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『しあわせの輪 れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』『こんな感じで書いてます』『捨てたい人捨てたくない人』『老いてお茶を習う』『六十路通過道中』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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