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爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」
小学校から大学まで――
さまざまなクラスで、それぞれの出会いがあった。
教室で、体育館で、廊下で、校庭で……。
時が経っても鮮明に思い出す彼女たちの面影。
ロングセラー『死にたい夜にかぎって』の著者が贈るスクールエッセイ。

前回は金的に始まり金的に終わる、泣けるお話でした。

今回は渋谷系の時代にタイムスリップ? カヒミ・カリィ似のおしゃれ女子につけられた素敵なニックネームのお話です。

1995年のカヒミ・カリィ・シンドローム

 「あんたの顔ってジャパンだよね。これからジャパンって呼ぶよ」

 クラスメイトの秋山あきやま 沙織さおりはそう言って、憎たらしいがどこか愛らしい笑顔を見せた。まさに小悪魔と呼ぶにふさわしい微笑みだ。

 高校一年生の九月、まだ夏の暑さが残る蒸し暑い日のことだった。

 胸元まで伸びたフワフワのロングヘアー、ちょっとハーフっぽい顔立ちにコケティッシュな声、他の女生徒と違って少し丈の短いスカートを履き、足元は黒のショートソックスでキメた女の子。
 世の流行にはいっさい便乗せず、本当に自分に似合うものを華麗に着こなす秋山さんは、押しも押されもせぬクラスの、いや学年全体のファッションリーダーだった。

 一九九五年、コギャルやアムラーといった、似たような格好をした量産型の女子高生が街にあふれる中、スタイリッシュに我が道をゆく彼女の姿は、当時でいえばカヒミ・カリィのような存在だった。
 聴いている音楽だってひと味違う。みんながミスチル、スピッツ、ブラー、オアシスなんかで騒いでるときに、秋山さんは一人でケン・イシイに夢中なのだから。

 そんな彼女が、私に授けてくれたニックネーム。それが「ジャパン」だった。

 そもそも、なぜ「ジャパン」なのか。
 もちろん、デヴィッド・シルヴィアンがやっていた「Japan」というバンドとは何の関係もない。
 直接本人に聞いてみたところ、その理由は顔の配色にあるという。
 中学時代はひどいニキビに悩まされたが、高校に入る頃には肌荒れもすっかり落ち着き、綺麗な白い肌を取り戻していた私の顔。ところが、ニキビの後遺症により、鼻とその周辺の赤みだけはどうしても残ってしまった。
 ようするに、周りが真っ白で中央部分だけが赤。それを見た秋山さんは、私の顔の配色が日本の国旗と全く同じであることに気付き、「ジャパン」と名付けたのである。

 名前の由来が判明したとき、私の体に衝撃が走った。本当にオシャレな人というのは、ニックネームのセンスも凡人の想像を軽く超えてくる。普通、赤い鼻をいじるのなら「ピエロ」とか「トナカイ」とか、それぐらいになるだろうに、まさか「ジャパン」とは。

 スポーツでも音楽でもジャンルはなんでもいい。人として、男として生まれたからには、一度は日本代表というものに憧れる。
 だが、どうやら自分にはそのような才覚がないことに気付き始めた高校一年の二学期、私は秋山さんから「ジャパン」と命名され、見事に国を背負うことができた。なんてったって顔が日の丸なのだ。これ以上の日本男児、日本代表がいようか、いやいるはずがない。

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爪切男

つめ・きりお●作家。東京都中野区在住。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。現在、週刊SPA!にて勤労エッセイ『働きアリに花束を』を連載中。2019年11月末に扶桑社より文庫版『死にたい夜にかぎって』発売予定。また、中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』も来年書籍化予定。トークショー、物言わぬ変人役でのドラマ出演、サウナコンテストの審査員など、作家以外の活動も多種にわたって迷走中。

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