よみタイ

爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」
小学校から大学まで――
さまざまなクラスで、それぞれの出会いがあった。
教室で、体育館で、廊下で、校庭で……。
時が経っても鮮明に思い出す彼女たちの面影。
ロングセラー『死にたい夜にかぎって』の著者が贈るスクールエッセイ。

前回は、渋谷系の時代、カヒミ・カリィ似のおしゃれ女子につけられた素敵なニックネームのお話でした。

今回は、また新しい恋の相手? が登場します。連載でもっとも衝撃的な一話です。

アリの巣・イン・ザ・恋のワンダーランド

 クラスメイトの杉浦すぎうら 直樹なおきは登校拒否児である。

 小学校の頃から学校を休みがちではあったが、中学に入ってからは、入学式以降、その姿を見ることはなかった。
 杉浦君はお世辞にも明るい性格とはいえないが、別にいじめられたりはしておらず、大きな病気を患っているという噂も聞いたことがない。
 スピッツの草野マサムネにそっくりで、マッシュルームカットがよく似合っていた杉浦君。その独特なかわいらしさから一部の女子には非常に人気があった。
 それなのにどうして彼は不登校になってしまったのか。
 まぁ、学校を嫌いになるのにたいした理由など必要ないのだが。

 実は小学四年生のとき、私と杉浦君はちょっとだけ仲が良かった時期がある。

 昼休みや放課後の校庭にて、他の子供たちがドッジボールやサッカーに興じる中、その頃の私は一人でアリの観察に夢中だった。グラウンドの隅っこや花壇の傍でアリたちの姿を見つけては、彼らの行動を事細かにノートに書き留める。気分はライク・ア・ファーブルといった感じだ。
 巣穴から土や石をせっせと運び出す働き者、力を合わせて自分たちより大きな虫の死骸さえも動かすチームワーク、種類によって色、大きさ、その仕事内容が微妙に違うアリたち。魅力溢れるアリの生態は、何時間眺めていても飽きることはなかった。

 なぜそこまでアリに興味を惹かれたのか。
 家が貧乏で八歳の頃から内職バイトに精を出していた私は、懸命に働くアリたちの姿に、自分のつらい現状を重ねていたのだと思う。アリに対する「頑張れ!」というエールは、自分自身に向けての応援でもあった。

「君もアリが好きなん?」

 ある日のこと、地面に這いつくばってアリを注視していた私に、声をかけてきたのが杉浦君だった。
 それからというもの、私たちはコンビを組んでアリの観察に精を出すようになった。

 しかし、ただアリを眺めているのが好きな私に対し、杉浦君はアリたちに対して残酷なことを平気で行うマッドな男だった。
 地面に砂糖水を垂らし、集まってきた大量のアリをライターの火で焼き殺したり、ピンセットで捕獲したアリをアリジゴクの巣に落としたりと、それはそれは鬼畜の所業の数々。
 子供ながらの好奇心と彼への付き合いで、私も何匹かは殺していたが、杉浦君の大量殺戮行為はエスカレートの一途をたどるばかりだった。
 狂ったようにアリを殺しまくる杉浦君に恐怖を覚えた私は、彼と一定の距離を取るようになり、じきにアリの観察もやめてしまう。
 私という相棒を失ってからも、彼は一人でアリを殺し続け、そしてクラスの中で孤立していった。

 たらればを言っても仕方ないが、あのとき、自分が杉浦君の傍に居続けてあげたのなら、彼は登校拒否児にならなかったかもしれない。そんな贖罪の気持ちを、私はずっと持ち続けていた。

1 2 3 4

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

新刊紹介

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

爪切男

つめ・きりお●作家。東京都中野区在住。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。現在、週刊SPA!にて勤労エッセイ『働きアリに花束を』を連載中。2019年11月末に扶桑社より文庫版『死にたい夜にかぎって』発売予定。また、中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』も来年書籍化予定。トークショー、物言わぬ変人役でのドラマ出演、サウナコンテストの審査員など、作家以外の活動も多種にわたって迷走中。

週間ランキング 今読まれているホットな記事