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爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」
小学校から大学まで――
さまざまなクラスで、それぞれの出会いがあった。
教室で、体育館で、廊下で、校庭で……。
時が経っても鮮明に思い出す彼女たちの面影。
ロングセラー『死にたい夜にかぎって』の著者が贈るスクールエッセイ。

前回は強くなる自意識と恥じらいの合間でゆれる中学時代にできた特技「バク転」にまつわる泣けるお話でした。
今回は、もうすぐ梅雨だから思いだす、雨や台風が比較的少ない香川ならではのストーリーです。

傘をささない僕らのスタンド・バイ・ミー

 傘をさすことが少ない人生を歩んできた。

 厳格な父親は、幼い我が子に「男は雨に濡れるぐらいでちょうどいい。簡単に傘をさすのは弱虫だ。雨に負けない強い男になれ」と言った。
 その言葉に従った私は、少々の雨では傘をささない「ヤバい子供」になった。
 傘をささぬ者の周りには、同じように傘をささない者が集まるようになり、傘をささない奴はだいたい友達になった。

 頑なに傘をささない性分は、大人になった今も変わらぬままだ。
 たとえば仕事で、初めて会う人との待ち合わせの日、雨模様の空を見ると、私の胸は急に躍り出す。
 商談の相手が男でも女でも関係ない。
 その人が今日の待ち合わせに傘をささずに来てくれたら、この出会いはきっと素晴らしいものになる!
 地面に落ちた雨音が刻む不規則なビートに身を任せ、私は街に飛び出していく。

 そんな私には、身体を雨に濡らすたびに思い出す一人の女の子がいる。
 その子の名は新井まどか、小学校三年生のときのクラスメイトだ。

 私が生まれ育った香川県は、全国有数の降雨量が少ない地域である。
 北を中国山脈、南を四国山脈に守られた地形がその原因だ。迫りくる雨雲のほとんどが山脈に遮られ、香川県の大地には恵みの雨が降らない。そのためよく水不足に陥る香川県は、あちこちに溜め池が作られているのだ。

 雨が降らないのだから台風だって来ない。
「台風〇号が四国に直撃!」という報道があっても、実際に被害に遭うのは太平洋側の高知県ばかり。四国四県のうち香川県にだけ警報すら出ないなんてことはザラであった。

 こんなことを言ったら、今まで台風の被害に遭われた人には大変申し訳ないが、あえて言わせてもらう。
 香川県の子供は「台風」に変な憧れがある。
 ただでさえ小学生ぐらいの子供は、町に台風がやって来ると『ビートルズがやって来るヤァ! ヤァ! ヤァ!』ぐらいはしゃぐ生き物だ。
 普段から雨が少ない香川県の子供にすれば、その憧れは並大抵のものではない。

 一九八七年、当時小学三年生の私もその通りであった。なんでも親父の話では、香川県に大きな台風が直撃したのは八年前のことで、それは私がこの世に生を受けた年だった。ということは、私は生まれてこのかた大きな台風を経験したことがなかったのだ。
 見たい。
 この目で台風を見たい。
 台風を感じたい。
 台風の中に入りたい。
 風の強さは? その音は? 雨はいったいどれぐらい降る?
 長年積もり積もった台風への興味は、もはや信仰に近いレベルになっていた。「台風教」と名付けてもいいぐらいである。

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爪切男

つめ・きりお●作家。東京都中野区在住。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』が来年書籍化予定。トークショー、物言わぬ変人役でのドラマ出演、サウナコンテストの審査員など、作家以外の活動も多種にわたって迷走中。

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