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オギリマサホ「スポーツ界イケてる顔面図鑑」
広島カープを、プロ野球を、いやいやスポーツ界をこよなく愛するイラストレーター、オギリマサホ。その愛ゆえか、職業柄か、なんだか気になる、なんとも魅かれる、スポーツ選手たちの顔、顔、顔……見渡せばスポーツ界にはイケてる顔面が大豊作。愛すべきその面々、ちょっと斜め下から分析しちゃいます!

ラグビー日本代表・稲垣啓太が、いつか心おきなく笑える日は来るのか〜稲垣啓太(ラグビー選手)

2019年のラグビーW杯は日本中をおおいに沸かせてくれた。伝統あるアイルランド、スコットランドを下しての1次リーグ4連勝、そして史上初の8強入りを果たした日本代表。その大躍進に大きく貢献しながらも、その歓喜の中でひたすら強面のまま「笑わない男」がいた。稲垣啓太…その存在感はいろいろな意味で抜群であった。

写真に撮られるのがどうにも苦手だ。

「はい、笑ってー」と言われても、おかしくもないのに笑えない。
無理に顔を作ってはみるが、撮られた写真を見てみれば、口は「笑っている」というより「歪んでいる」という形容がふさわしく、頬骨は目立ち、シワは寄り、一方で目は決して笑っていない。
いつしか写真に写る時には口を閉じて「少し微笑む」くらいの顔を心掛けるようになった。

そんな私がつい共感してしまうのが、ラグビー日本代表プロップ・稲垣啓太である。

稲垣は写真に撮られる際に一切笑顔を見せない。
そのいかつい顔立ちと相まって、いつしか「笑わない男」と呼ばれるようになった。

稲垣は笑わない理由として、「試合中や練習中にヘラヘラしたり白い歯を見せるのが好きじゃない。個人としての美学みたいなものもある」(デイリースポーツオンライン・2019年11月20日)と語っている。私のように「写真写りが悪いから」というような些末な理由ではない訳だが、それでもやはり「カメラを向けられた時には笑いたくない」という気持ちはよくわかる。

まさか流行語大賞の候補になってしまうとは。それも本名ではなく「笑わない男」で
まさか流行語大賞の候補になってしまうとは。それも本名ではなく「笑わない男」で

それにしても、いつから稲垣は「笑わない男」と呼ばれるようになったのか。

4年前のワールドカップの際にも稲垣は同じ表情をしていたはずだが、特に「笑わない男」とは表現されていなかったように思う。やはり今年に入ってから、ワールドカップ日本開催、そして日本代表が快進撃を続ける中で、日々高まるラグビー熱とともに注目されるようになったのだろう。
そしてついに「ONE TEAM」や「4年に一度じゃない。一生に一度だ」といったラグビー発の言葉と合わせて、「笑わない男」は今年の流行語大賞にノミネートまでされてしまった。

そうなると今度は「笑わない男を何とかして笑わせよう」という動きが生じてくる。稲垣が出演したTV番組では、罰ゲームとして「とびっきりの笑顔」を強要され、雑誌の取材では、ほんの僅かの隙を狙って顔が緩んだ写真を撮られている。今月20日に故郷の新潟に凱旋し、母校・新潟工業高校で講演した折にも、生徒との間で
「笑わない男として有名ですが、本当は笑いたいですか」
「笑ったことないです」
「真顔の稲垣啓太選手も好きなんですが、笑ってほしいなあと思ってます」
「無理です」
というやりとりが交わされていた。

果たして「笑わない男」のイメージは一過性のものなのか

そもそも人はなぜ、笑わない人を笑わせようとするのだろうか。
笑わせられる側からしてみれば、「笑え」と言われれば言われるほど笑いたくなくなる、というのが正直なところである。

稲垣も「いつ何どきでも笑わない」わけではない。自らが笑いたいところでは笑っている。
4年前のワールドカップでも帰国記者会見の際に、カール・ヘスケスのたどたどしい日本語での挨拶に笑みを見せていた。
今回のワールドカップ1次リーグのスコットランド戦で、稲垣は日本代表戦初となるトライを決めたが、その時にも笑顔はなかったと報じられた。しかしこの試合の終了後には、中村亮土と肩を組んで笑顔で引き上げていく稲垣の姿があったのである。

振り返れば以前は、笑顔で写真におさまる稲垣の姿も多く見受けられた。
2014年、トップリーグ新人賞を受賞した表彰式の場では、稲垣は堀江恭佑と並んで笑顔だった。
スーパーラグビーチーム・サンウルブズの公式インスタグラムでも、満面の笑みを浮かべた稲垣の写真が2年前に投稿されているのである。

おそらく稲垣本人は、最近になって過熱した「笑わない男」イメージを承知し、あえてそれを演じてくれているのではないだろうか。
この「笑わない男」イメージは一過性のものなのか、或いは今後も続いていくのか。

稲垣が他人の声を気にすることなく笑える日が来ることを祈るばかりである。

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オギリマサホ

1976年東京都出身。イラストレーターとしてシュールな人物画を中心に雑誌や書籍などで活躍。中学1年までは巨人ファンだったのが、中2のときに投手王国・広島カープに魅せられ、広島ファンに転向。そのカープ愛が炸裂するイラストエッセイ『斜め下からカープ論』を刊行。野球のみならず、広くスポーツ界を愛している。
Twitter@ogirim

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