よみタイ

爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」

金的に始まり、金的に終わる恋

 後日、同じ理由を使って、クラスメイトの別の女の子に、顔、胸、腹とあらゆる場所を殴ってもらったのだが、全然気持ちよくないし、嬉しくもなかった。きっと田代さんのパンチなら絶対に気持ちいいんだろうなと思った。

 小学校時代のクラスメイトから、田代さんが私のことを好きだったと聞いたのは高校生になってからだった。

 好きな男の子を殴ることができずに泣いた田代さん。
 好きな男の子の願いを叶えてあげられなくて泣いた田代さん。
 私は今も「ヴヴヴ」と唸るような彼女の泣き声を忘れることができない。
 いや、一生忘れてはいけないのだ。

 田代さん、お元気ですか。
 あのときのマゾです。
 空手はまだ続けているのでしょうか。
 小学五年生のときにあなたに辛い思いをさせてごめんなさい。
 あれから私も人並みに恋やらなんやら経験し、四十歳を過ぎて、ようやく人に殴られなくても愛を感じることができるようになりました。
 でも、あの日あなたに殴られていたら、私は本当のマゾになっていたかもしれません。
 それはそれで楽しかったような気もしています。
 そして、ようやく今になって分かったことがあります。
 田代 加奈さん、私はあなたのことが好きでした。
 あの頃、私たちはきっと両想いだった。
 田代さん。
 もし、あなたが偶然この文章を読んで、こいつ気持ち悪いなと思ったら連絡をください。
 顔、腹、金的、どこを殴ってもOKです。

1 2 3 4 5

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

新刊紹介

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

爪切男

つめ・きりお●作家。東京都中野区在住。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。現在、週刊SPA!にて勤労エッセイ『働きアリに花束を』を連載中。2019年11月末に扶桑社より文庫版『死にたい夜にかぎって』発売予定。また、中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』も来年書籍化予定。トークショー、物言わぬ変人役でのドラマ出演、サウナコンテストの審査員など、作家以外の活動も多種にわたって迷走中。

週間ランキング 今読まれているホットな記事