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爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」

金的に始まり、金的に終わる恋

 田代さんの金的をきっかけに、五年二組に大きな変化が起きた。
 自分に嫌なことをしてくる男子に対し、女子たちは金的で反撃するようになったのだ。力の弱い女の子でも金的を使えば充分男子と渡り合える。田代さんの大立ち回りは、女子たちに戦う勇気を与え、五年二組の男子と女子のパワーバランスまで変えてしまった。
 そんなことは気にも留めず、喧嘩のときとは打って変わってあどけない笑顔を見せている田代さん。

 私は彼女に対して、二つの強い感情を抱いていた。
 一つは尊敬の念、そしてもう一つは、私を思いっきり殴ってくれないかなという切なる願いであった。

 母親がいなくても立派な人間に育つようにと、体育会系思考の強い親父は行き過ぎたスパルタ教育を私に課した。
 幼い頃から、悪いことをすると容赦のない鉄拳制裁が待っていた。ほぼDVに近いレベルだったが、実はそれほど辛くはなかった。

 自分は母親に捨てられたいらない人間なんだと思い込んでいた私にとって、親父に殴られることだけが自らの存在意義を証明できる方法だった。
「誰かに殴られる」ということは、相手が私を認識してくれており、私がこの世に存在する何よりの証拠となる。
 親父の拳をこの身に受けるたび、私は自分が必要とされていると思った。強く殴られれば強く殴られるほどに親父の愛を感じた。
 まあ、前向きにそう思わないと親父の厳しいしつけに耐えられなかったというのもあるのだが。

 母がいなくなった三歳のときから、もう八年間も親父に殴られてきた。
 たまには可愛い女の子に殴られて生を感じてみたい。
 心からそう思える女の子をようやく見つけた。
 それが田代さん。
 ああ、早く田代さんに殴られたい。なんなら金的でもいい。
 小学五年生にしてマゾに目覚めた私は行動を開始した。

 作戦はシンプルにいこう。
 いじめっこと同じように、彼女にちょっかいを出して怒らせる。そして、あの美しい正拳突きをこの身に頂くのだ。

 ことあるごとに田代さんにウザイ絡み方をするようになった私。「チビ」とか「デコっぱち」とか低レベルの悪口を浴びせかけ、髪の毛を引っ張るなどの挑発行為を連日のように続けた。

 ところが、嫌がらせを始めて一週間が過ぎても、彼女は私を殴ってくれなかった。
 他の男子が同じようなことをしたら、容赦のない金的を打ち込むというのに、私にだけは全く手を出さず、ただ「やめてよ~」と微笑むだけなのだ。

 ここは少しアプローチ方法を変えてみよう。
 そう思った私は、放課後の運動場に彼女を呼び出した。

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爪切男

つめ・きりお●作家。東京都中野区在住。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』が来年書籍化予定。トークショー、物言わぬ変人役でのドラマ出演、サウナコンテストの審査員など、作家以外の活動も多種にわたって迷走中。

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