よみタイ

爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」

傘をささない僕らのスタンド・バイ・ミー

「新井さん、そろそろ帰ろうか」
「うん、帰ろうや」
「あ、あれ、ほんまに死体やったんかな」
「いや、違うと思うわ、ボールに草が絡まってたんちゃう」
「そう言われたらそうやな」
「うん、もう忘れよ、楽しかったしええやん」
「よし、じゃあ誰にも内緒な」
「うん、内緒な」

 手を繋いで走ってきた道を、今度は手を繋がずに歩いて帰る。
「もう一度手をつなぎたいな」
 その一言を伝える勇気が出せない私だった。

 新井まどかさん。
 あなたが濁った色が好きだとか、虹は嫌いだとか言うから、私は変に影響を受けました。中学や高校の美術の授業で、空を黄土色に塗ったり、花をこげ茶色に塗ったりして、先生によく怒られました。
 そのたびに、あなたと見たあの台風の後の濁った川を思い出します。
 濁った色の方が美しい。
 大人になった今、ようやくその意味が分かってきたような気がします。
 あなたはいったいどんな素敵な女性になったのでしょうか。できるなら、アゲハ蝶ではなく、私の好みである蛾のような女性になっていて欲しいです。
 あと、高校生の時に、可愛い女の子から「笑った顔がカナブンの裏側に似ているよ」って言われました。
 あなたにそれを伝えたら「いいやん、虫の裏側、私は綺麗やと思う」と言って助けてくれたのかな。そんなことを思います。
 新井まどかさん。
 今なら分かる。
 あなたは本当の美しさを知っている素敵な女性だった。
 そして、私はあなたとあなたの美的感覚が大好きでした。

1 2 3 4 5

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

爪切男

つめ・きりお●作家。東京都中野区在住。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。現在、週刊SPA!にて勤労エッセイ『働きアリに花束を』を連載中。2019年11月末に扶桑社より文庫版『死にたい夜にかぎって』発売予定。また、中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』も来年書籍化予定。トークショー、物言わぬ変人役でのドラマ出演、サウナコンテストの審査員など、作家以外の活動も多種にわたって迷走中。

週間ランキング 今読まれているホットな記事