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爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」
小学校から大学まで――
さまざまなクラスで、それぞれの出会いがあった。
教室で、体育館で、廊下で、校庭で……。
時が経っても鮮明に思い出す彼女たちの面影。
ロングセラー『死にたい夜にかぎって』の著者が贈るスクールエッセイ。

前回は学校一の優等生女子との忘れらないワックスがけのお話でした。
今回は、近しい環境の貧しかった幼なじみ女子との泣けて泣けて泣けるエピソードです。

幼なじみの罪とヤマボウシは蜜の味

 幼なじみのナッちゃんが泥棒になってしまった。

 ナッちゃんは、私と同い年の小学六年生で、名前を西山にしやま奈都己なつきという。私たちは幼稚園の頃からの付き合いで、お互いを「ヒロくん」「ナッちゃん」と呼び合う仲だった。
 伸ばし放題の髪の毛と日に焼けた真っ黒な肌に、女の子らしくない「げへへっ」という笑い方。昔のナッちゃんは、まさに野生児そのものだった。十二歳になると、そんな少女もポニーテールが似合う可愛い女の子に成長するのだから、女の子とは本当に不思議な生き物だ。
 多いときは週に三回ほど遊んでいたのに、小学校高学年になると、ちょっとした照れもあって、一緒にいること自体めっきり少なくなった。それでも、私が学校で一番気楽に話せる女子といえば、ナッちゃんをおいて他には考えられないのだが。
 あのナッちゃんが泥棒に。にわかには信じられない話である。

「貧乏」
 これが、私とナッちゃんを強く結びつけた共通点だった。
 三歳で母親に捨てられ、我が家が抱える借金返済のために、八歳から内職のアルバイトを始めた私。
 生まれてすぐに父親を亡くし、母親は若い男と蒸発。年老いた祖父母と三人で貧乏暮らしを送っていたナッちゃん。
 それぞれ境遇は違えども、貧しい環境に負けずに毎日を精一杯生きていた。そんな似た者同士の二人が惹かれ合うようになるのは、ごく自然な流れだったと思う。
「ナッちゃん、カマボコを百回以上噛むとすごく甘くなるよ」
「ヒロ君、とっても美味しい歯磨き粉見つけたの」
「サルビアの蜜を吸ってからチョコレート食べると美味しいよ」
「給食の残りのマーガリンをつけて、その辺の草を食べたら美味しかった!」
「もし目薬が飲めたらジュースいらないのになぁ」
「私、目薬飲んだことあるよ、たまに美味しいのがあるよ」
 私たちの会話はいつもこんな感じだった。
 正直、貧乏は辛い。
 幸運だったのは、一人ぼっちじゃなかったことだ。
 私が貧乏ならナッちゃんも貧乏だし、ナッちゃんが貧乏なら私も貧乏なのだ。
「武士は食わねど高楊枝」とまではいかなくても、二人一緒なら貧しさに負けたりしない。
「金はなくとも心は豊かに。いつもヘラヘラ笑っていよう」
 子供の時にそう誓ったはずじゃないのか、ナッちゃん。それなのになんで泥棒なんて……。

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爪切男

つめ・きりお●作家。東京都中野区在住。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。現在、週刊SPA!にて勤労エッセイ『働きアリに花束を』を連載中。2019年11月末に扶桑社より文庫版『死にたい夜にかぎって』発売予定。また、中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』も来年書籍化予定。トークショー、物言わぬ変人役でのドラマ出演、サウナコンテストの審査員など、作家以外の活動も多種にわたって迷走中。

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