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爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」

空を飛ぶほどアイ・ラブ・ユー

 佐藤さんとは三年生でも同じクラスになったのだが、とくに仲良くすることはなかった。正しく言えば、私の方から接触を避けていた。二度と悲しい記憶を思い出さないように。
 なんとか人間の女の子にバク転を見せたかった私は、近所で農作業している農家のお婆ちゃんの前でバク転をするようになっていた。
 何回もやっていたら「すごいな、これ、ご褒美や」とミカンをもらったこともある。

 そして卒業式の日がやってきた。
 運命というものは残酷なもので、卒業式間際になって私の顔からニキビは綺麗さっぱり消えていた。あんなに苦しんだ学校生活は何だったんだ。
 ニキビが無くなったからといって、「第二ボタンをください」なんて素敵なイベントが起きることもなく、卒業式はつつがなく終わった。
 下校前の教室では、クラスメイトたちがお互いの卒業アルバムにメッセージを書き込み合っている。
 私も仲が良かった男友達何人かとくだらない言葉を交換する。そのとき、不意に佐藤さんが近くにいることに気づいた。向こうも私の方をじっと見つめていた。
 どうせ同じ高校にも行かないし、もう人生で会うこともたぶんないだろうなと思った私は、最後にもう一回恥をかいておこうと、メッセージ交換をお願いすることにした。
 佐藤さんは、昔と変わらぬ笑顔でうなずいてくれた。

「卒業おめでとう。高校に行っても元気でね」と無難な文章を書き込む私。少し照れ臭そうにメッセージを書き込んだ佐藤さんがアルバムを渡してくる。
 私はすぐにメッセージを確認する。そこには書道部らしい綺麗な文字でこう書いてあった。

「バク転カッコ良かったよ。またいつかバク転を見せて欲しいな」

 読み終えた私は佐藤さんの方に向かって走り出した。
 そして私は卒業式の日に
 もう一度彼女の前で飛んだ。

 佐藤さん元気にしていますか。
 信じられないことに、私の体重は今、百キロ近くになりました。
 もう見た目はほぼ球に近いです。
 あなたに褒めてもらえたバク転などできるわけがなく、側転すらも怪しいところです。
 もし嫌じゃなければ、僕のバク転を忘れないでいてください。
 自分が空を飛べていたときのことを、佐藤さんに覚えていてもらえたらなんか嬉しいのです。
 そういえば佐藤さんの声を僕は一回も聴いたことがない。
 でもこのまま知らないでいる方が素敵なのかなって思います。
 そして今なら分かる。
 私は佐藤瑠美子さん、あなたのことが好きでした。
 好きな女の子のためなら、男は空を飛べるんです。

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爪切男

つめ・きりお●作家。東京都中野区在住。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。現在、週刊SPA!にて勤労エッセイ『働きアリに花束を』を連載中。2019年11月末に扶桑社より文庫版『死にたい夜にかぎって』発売予定。また、中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』も来年書籍化予定。トークショー、物言わぬ変人役でのドラマ出演、サウナコンテストの審査員など、作家以外の活動も多種にわたって迷走中。

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