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爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」

空を飛ぶほどアイ・ラブ・ユー

 神様や野良猫にバク転を見せる生活に戻ってから二ヶ月後、うちのクラスで一番運動神経の良い吉田君が「俺、バク転できるようになったぞ!」と突然騒ぎ出した。目立ちたがり屋の彼は、教室前の廊下を使って、クラスメイトの前で綺麗なバク転を決めた。さすが吉田君、まるで体操選手のような綺麗な姿勢での後方宙返りである。

 やっぱり発明でもパフォーマンスでも何でもそうだ。早くやればいいってもんじゃない。それをするのに相応しい人がやるからこそ意味がある。クラス中から大喝采を浴びる吉田君を見ながら私はそう思った。変な色気を出して、みんなの前でバク転しないで本当によかった。

 そのとき、佐藤さんが私の方をチラチラと見ていることに気が付いた。あの日と同じように、何か言いたそうな顔をしている。何かあるならそれをちゃんと言葉にして言って欲しい。私には君の思っていることが分からないんだ。
「俺もできるんだよ」ってみんなの前でバク転をしろとでも言うのか。俺みたいな不細工はそんな目立つことしちゃダメなんだよ。
 佐藤さん、私は絶対に間違っていない。間違っていないはずなのに、君に見つめられると胸がチクチクと痛むからやめてほしい。
 でも君から「もう一度バク転をして」と言われたら、私は何度だって空を飛ぶつもりなんだ。吉田君にだって負けないぐらいに。
 君がハッキリと自分の意見を言葉にして言える人だったら、私の学校生活も、いや人生すら変わったのかもしれない。こんな風に責任を君になすりつける卑怯者には元々無理なんだろうけど。

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爪切男

つめ・きりお●作家。東京都中野区在住。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。現在、週刊SPA!にて勤労エッセイ『働きアリに花束を』を連載中。2019年11月末に扶桑社より文庫版『死にたい夜にかぎって』発売予定。また、中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』も来年書籍化予定。トークショー、物言わぬ変人役でのドラマ出演、サウナコンテストの審査員など、作家以外の活動も多種にわたって迷走中。

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