よみタイ

稲田ズイキ「罰当たりなほどにユルくてポップな仏教トーク」

猛暑を仏教的に乗り越えようと考えたら、結論は「竹になること」だった

今、ここを生きる、夏の夜。

もはや、圭と言われていることにツッコむことを忘れていた。

「『いやだ』って気持ちは、皆が頑張っている世界で、自分だけ『なんでこうなったんだろう』『ああなってほしいなぁ』って思ってるから生まれるんじゃないの?」

「『なんで自分はこんなに暑い目に合わないといけないの』とか『涼しくなってほしい』」とか、そんなないものねだりしてる自分がいるんじゃないのか?」

苦しいのは『自分』があるからだよ!!!いいか圭、竹になろう!!!バンブー!!!!!」

たしかにそうかもしれない。そもそも「暑い」という現象を誰も止めることはできないのだ。
なのに、そこに自分本位の気持ちがあれば、思い通りにいかない苦しみを抱えることになる。さっきの五蘊のプロセスは、まずはそう感じている「自分」の存在があることを自覚するためのものなのかもしれない。

「じゃあ、どうすれば『自分』をなくすことができるのですか?」と尋ねると、精は松岡修造の名言を持ち出してこのように言った。
「なんとなく生きてんじゃないんですか? 迷ってんじゃないですか? イキイキしたい!簡単ですよ。 過去のことを思っちゃダメだよ。 何であんなことしたんだろ……って怒りに変わってくるから。 未来のことも思っちゃダメ。大丈夫かな、はぁ~ん。 不安になってくるでしょ? ならば、一所懸命、一つの所に命を懸ける! そうだ!今ここを生きていけば、みんなイキイキするぞ!!

そう言い残して、幻のように夏の精は姿を消していった。

一体、なんだったのだろう。夏の精とは何者だったのか。本当に仏だったのだろうか。ただ、その言葉には説得力と法味が満ち溢れていたのは確かだ。

今、ここを生きる
最後に言い残していった言葉が頭の中でなんどもリフレインした。
どこかで聞いたことのある話だ。でも、どういう意味なのだろう。

室温は相変わらず、38度のまま。
ざわついた気持ちをどうにか落ち着けたくて、ベッドに腰掛け、ゆっくりと深呼吸をした。今、ここだけに心を集中させてみる。

一つ……
二つ……
三つ……

竹になったような感覚。しかし、次第に自分が竹であることも忘れていく。ただ、今、汗が流れているだけ……

「そうか、夏の精さん、これが……」

汗ばむ体に、ウィンブルドンの風が心地よく吹き抜けたような気がした。

(終)

※この物語はもちろんフィクションです。近頃、今ここだけに集中する方法として、「坐禅」や「瞑想(メディテーション)」が流行ってます。もちろん物理的な暑さ対策は万全に喫したうえ、精神面の対策として「暑さを暑さとだけ認識する訓練」をしてみてはいかがでしょうか。

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稲田ズイキ

いなだ・ずいき●僧侶。1992年京都の月仲山称名寺生まれで現・副住職。同志社大学を卒業、同大学院法学研究科を中退、その後デジタルエージェンシー企業インフォバーンに入社。2018年に独立し、寺に定住せず煩悩タップリな企画をやる「煩悩クリエイター」として活動中。コラム連載など、文筆業のかたわら、お寺ミュージカル映画祭「テ・ラ・ランド」や失恋浄化バー「失恋供養」、煩悩浄化トークイベント「煩悩ナイト」などリアルイベントを企画しています。フリースタイルな僧侶たちWeb編集長。Twitter @andymizuki
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竹内佐千子

たけうち・さちこ●漫画家。おっかけ対象が男子で恋愛対象が女子のレズビアン。
自身の恋愛体験を描いたコミックエッセイをはじめ、おっかけ、腐女子、などをテーマにしたコミックエッセイを描き続け、最近はストーリー漫画も描いている。
赤ちゃん本部長』(講談社)、『生きるために必要だから、イケメンに会いに行った。』(ぶんか社)など。
ホームページhttp://takeuchisachiko.jp/
Twitter @takeuchisachiko

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