2019.5.12
「色即是空」をギャルで説明してみたら、あらゆる存在が「SHIBUYA109」になった
第五章:ギャルとは「状態」である
後の話によれば、その日、渋谷には原因不明の無常の風が吹き荒れていたという。
ギャルは言う。
「つまり、『ニット』っていうのは、様々な物質が集まって、『ニット』という状態を保ってて。その状態が保たれている間は『ニット』だけど、ひとたびバラバラになったら『ニット』ではなくなるの。『ニット』とは『ニット』という物質があるように見えて、実は様々な物質が『ニット』という状態をつくっているだけなの。わかった〜?」
わかったような気もするし、わからない気もする。
毛糸もレースも、ニットそのものではなく、ニットという状態に物体が保たれていたということである。
「で、ニットがどうしたんだっけ?」
「ギャルもニットと同じ。ギャルは、つけまつげとかエクステとか、様々な条件のもと、組み合わさってできた一つの『状態』であって。これがウチがギャルっていう『実体』はないって言ってた理由。だから、ウチのことギャルとかって勝手に決めつけて言わないでくれる?」
「ギャルは実体がないって、つまり、ギャルは存在しないということなの?」
「『無』というのも、一つの『状態』に過ぎないの〜。ギャルの条件が『0個ある』という状態と言えばわかるかな〜 つまり、ギャルは『ある』とも言えるし『ない』とも言えるし『ありよりのなし』とも言えるし『なしよりのあり』とも言えるってこと〜」
最終章:「ギャル即是空」
この時、ギャルの後ろに立つ「SHIBUYA109」はギャルの体から発された光を反射し、瑠璃色に輝いていたという。
ギャルは続ける。
「つーか、ニットやギャルだけじゃないよ。この世のあらゆるものは、『状態』として存在しているだけで、固定的な『実体』としては存在してない。どんなものも必ず物質が集まって形をつくっていて、本体自体が不変なものは何一つ存在しないってこと〜」
目の前にいるのは、もはやあの時のメンディーなギャルではなかった。
「悟っているギャル」だ。
僕は悟っているギャルと話しているのだ。
「いうなら、人類はみんな『109』って感じ。『109』は中のテナントを入れ替えながら『109』としてあり続けてるっしょ? でも『109』それ自体が何かって言われたら、誰も答えられない。」
万物は「SHIBUYA109」である。僕は今、ギャルから真理を学ぼうとしている。
「その『109』をこの世に存在する言葉で表現するなら『空』ってことだね。『空』というのは『何もない』と表現されるけど、正しく言えば『109』と一緒で『実体がない』ということ。あらゆるものも流動的に変化している『状態』としてあるだけで、ずっと仮の姿なんだよね。それが色即是空。」
「『色即是空』……。クレヨンしんちゃんの掛け軸で見たことあります……」
知らない間に、目の前の存在に敬意を払っている自分がいた。
「ギャルも、ドルガバも全部『空』なの。マジ『ギャル即是空』って感じ。ギャルは秒で、今も変化し続けてんだけど、それなのにお兄さんは固体的な『ギャル』があると思ってる。でも、お兄さんが見ているのはギャルの残像なんだよね。誰にもギャルは止めらんないんだよ」
気づけば、ギャルの身体から発される光は渋谷中を照らすかのごとく放出されていた。
目も開けていられないほどの光量の中、僕は必死に目の前の存在を目に焼き付けようとしていた。
「あなたは一体何者……!?」
「まりぽよだよ〜」
ちがう。普通の人間ではない。何かしらの境地に達している。
光…悟り…そして、その思想。
頭の中で一つのイメージと結びついた。
かつて読んだ漫画『聖 おにいさん』の、あのキャラが脳裏に浮かんだ。
「君……もしかして……ブッ…」
尋ねようとしたとき、雲をさすような光とともにギャルは姿を消した。
そのあと、どれだけ探しても「光を放っていたギャル」の存在を覚えている者はなかった。
幻だったのか、それとも何かのお告げだったか。もはや、誰にもわからない。
今日も「SHIBUYA109」には、ドルガバの香水の匂いが絶えず香り続けている。
その場所に、世にも珍しい「金色ロン毛つけま仏像」が建立されるのは、今から100年後の話。
(終)
※当然ですが『ギャル即是空』はフィクションです。『弥蘭王問経』(『ミリンダ王の問い』)という仏典を参考に創作しました。気になる人がいれば調べてみてね。