よみタイ

50歳の贈り物 【青いケチャップ、白いカラス 第1回】

記事が続きます

 ベビーパールのネックレスの他にもうひとつ「50歳の贈り物」をした。
 それは自分にではなく、両親へだ。
 そうしようと思ったきっかけが、ある日ふと目にしたSNSだった。公私共に仲良くしているライターのKさんのSNSに、高校生の娘と二人であるミュージシャンのライブに行った時のことが書かれていた。
「アンコールの時、『もしあなたが今日大切な人と来たなら、その人と手を繋いで』と言ったのを聞いて、娘が私の手を握ってくれた。子育て成功したと思えた瞬間だった」
 それを見た時、忘れていたとても大切なことを思い出した。
――そうだ。私は誕生日に、産んでもらったんだ。
 陣痛は6時間ほどで、二人目ということもあり安産だったと母から聞いたことがあった。産んでまだ間もない入院中の母の写真を思い出すと、白地に紺の模様の浴衣を着て、ボサボサの髪の毛のまま横たわり、青白い顔でうっすらと微笑みながら誰かに話しかけているように見えた。産んでしばらくはお腹が痛かったと言っていた。あまり母乳の出がよくなく、それでも必死にあなたは乳首に吸い付いてきたんだよと教えてもらったこともあった。
 それから50年。
 きっと両親の思い描くような理想通りの娘には育たなかったと思う。大学へも行かず、安定した職業とは言えないもので生計を立てる娘を通して、自分の価値観がひっくり返るような思いもしただろう。自分の子育てはこれでよかったのかと悩んだ夜は数えきれないほどあったのではないだろうか。
 コピーライターの岩崎俊一さんの著書『大人の迷子たち』(廣済堂出版)の中で、「買って貰えないものは、勝って、貰うしかない。」という章がある。その中の一文を抜粋させていただきたい。
『オリンピックという舞台を見るたびに思うのは、そこには世界中の「子育ての最高傑作」がずらりと並んでいる。まさにそのことである。』
 本当にその通りだと思う。幼い頃から一番近くで支え続け、共に笑い、泣き、親が与えられないものを自分の力で手に入れようとする我が子の姿に、勝ち負けを超えた人としての厚みを確認できる舞台。まさに「子育ての最高傑作」だと、親として震えるほどの誇りに包まれるであろう。
 自分にはメダルも表彰状もないけれど、せめて「子育て成功した」と感じてもらうことはできるんじゃないだろうか。今こうして幸せに暮らしていること、大きな怪我や病気もなく50年間無事に生きてこられたこと、全ては産んでもらえたからこそ得られる感性。
 父に、母に、この世に誕生させてくれてありがとうと伝えるには、50という節目の歳はあまりにもピッタリだ。

 私は誕生日に届くよう、父と母の大好物のウニとイクラを贈った。
 年に何度か近所のお寿司をとって食べる時、本当は自分だってイクラが大好きなくせに必ず私にそっとくれた父。
 毎年お手製のイクラの醤油漬けを作り、瓶に詰めて冷凍して送り続けてくれた母。
 私はあなたたちの娘に生まれて本当に幸せです。
 50年前、産んでくれてありがとう。
 母から届いた嬉しそうなメッセージと、輝くウニイクラ丼の美味しそうな写真を見て、心に小さなマルがついた。

記事が続きます

次回は11月15日 公開予定です。

1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

浜島直子

1976年、北海道生まれ。18歳でモデルデビュー。愛称は“はまじ”。モデルとして雑誌や広告などで活躍する一方、ラジオ番組のパートナーやTV番組のコメンテーター、エッセイ執筆など幅広く活躍。著書に2020年に出版された初のエッセイ本『蝶の粉』(ミルブックス)他、『けだま』(大和書房)、『キドアイラク譚』(扶桑社)がある。

[週間ランキング] 今読まれているホットな記事