よみタイ

佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』観るならVHSで

公開35周年のメモリアルイヤーだからということらしい。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のシリーズ三部作が、三週連続で地上波放送されている。
この連載コラムのタイトルのオマージュっぷりを見てもらえたらわかるとおり、僕はこの映画に強い思い入れを持っている。

日本では1985年12月、僕が高校1年生だった冬に公開された『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。
その頃、仲が良かった友達と吉祥寺の映画館で鑑賞した。
僕の通っていた高校は少し特殊な学校で、全校生徒のうち3分の2が海外からの帰国生。
僕は少数派の国内進学組だったが、その友達はバリバリのアメリカ帰りだった。

映画を観ている間も終わったあとも、そいつは「懐かしいな〜」「これだよ、これ!」「またアメリカに行きたいな〜」とうわごとのように言っていて、僕とは違う何かを感じているようだった。
ツッパリ全盛時代の東京・三多摩地区公立中学校出身の僕にとっては、僕らと同い年の設定であるマイケル・J・フォックス演じる主人公マーティの、いかにもアメリカ的な暮らしとものの考え方は、これまで自分を取り巻いていた物事とあまりに違ったし、とても新鮮だった。

綺麗なデジタルリマスター版には現れないミッド80sのあの雰囲気

パート2もパート3も公開されるやいなやすぐ映画館へ走った。
その後もレンタルビデオを何度も借りた挙句、こんなに繰り返し観るのなら買った方が得だなと思ってVHSのビデオソフトを購入した。

30歳でパーキンソン病と診断され身体の自由が効かなくなっても、みずからの難病と闘いつつ社会貢献活動をおこない、果敢に人前に立ち続けるマイケル・J・フォックスのリアルな生き様にも刺激を受けた。

一緒に映画を観にいった友達とは、喧嘩をしたわけではないけど、青春時代に起こりがちなちょっとした行き違いから関係が薄まり、そのまま卒業。
大人になってからはテレビマンとして活躍していると風の便りで聞いていたし、同窓会で久しぶりに再会したときは、昔のようにたわいのない会話も交わした。
でも彼は数年前、病気で天国に行ってしまった。
マーティと同い年の我々はもう、そういうことも起こりうる年齢。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、我が人生とともにあるような映画なのだ。

サブスクでも何度も観たのに、今回の地上波放送もまた観てしまった。
しかし最近のそうした映像には、軽い違和感を抱かざるをえない。
僕の心の中の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、ちょっと粗くて暗いアナログ映像。
最近のキッパリ綺麗なデジタルリマスター映像は、何かが少し違う感じがしてしまうのだ。

いろいろなことに思いをめぐらすためにも、そういう粗さを含むあの頃=ミッド80sの映像に浸りたい。
だから令和時代の今もまだ、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のVHS版と、それを再生できるビデオデッキは捨てられないのである。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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