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せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。

前回は2枚のハムの落とし物を発見し、ハムのCMをあれこれ考えてしまった著者。
今回は、ある冬の日にビデオテープの落とし物を発見したようで――

雪道に落ちていたビデオテープに録画されていてほしい織田裕二主演の映画たち

ある冬の日、雪が積もる道で発見したビデオテープの落とし物。(写真/ダーシマ)
ある冬の日、雪が積もる道で発見したビデオテープの落とし物。(写真/ダーシマ)

雪と織田裕二主演映画はよく似合う?

VHSのビデオテープがあって私は足を止めた。

今の時代、ビデオテープが落ちているのは珍しいことだ。私の世代はビデオテープを頻繁に利用した世代であるが、今はもしかしたらビデオテープを知らない人もいるかもしれない。

しかもビデオテープは雪の上にあったから、さらに珍しい光景を作っていた。

正面のラベルも背面のラベルも見えないために、何のビデオテープかはわからない。ただ磁気テープのカバーの色から判断するに、どこかの家庭でテレビ番組などが録画されたものではなく、業務用のものだと思われる。つまりセルビデオの可能性がある。

私は何のビデオか考え始める。

もしも私が中高生だったら「これはアダルトビデオなのか、そうじゃないのか」の二択だっただろうが、今はもういい大人だ。別の選択肢を考えることができる。

もっともベストなのは、ドラマ『北の国から』のビデオではないだろうか。それなら雪の上がよく似合う。個人的には「’87初恋」ならばなお良い。今にもあのテーマ曲が聞こえてきそうだ。

雪から考えたなら、織田裕二主演の映画『ホワイトアウト』のビデオでも良いのではないだろうか。この映画は雪に覆われたダムがテロリストに占拠されてしまい、織田裕二演じる主人公がひとりでテロリストに立ち向かうという内容で、「和製ダイ・ハード」とも言われている。

「織田裕二」プラス「和製」の組み合わせといえば『BEST GUY』が思い出される。これは航空自衛隊の千歳基地を舞台にした映画であり、「和製トップガン」と言われることが多い。

織田裕二の映画といえば私の中では何といっても『湘南爆走族』である。織田裕二のデビュー作だ。当時は映画館が入替制ではなかったために一度入ってしまえば終わりまでいることができて、私は学校へ行かずに朝から夜まで見ていた記憶がある。ちなみにその頃は同時上映というシステムがあって映画はだいたい二本立てであった。湘南爆走族の時も同時上映があったのだが作品名が思い出せない。

あとは『就職戦線異状なし』と『卒業旅行〜ニホンから来ました』をなぜか覚えている。他には……ここで私は我に返る。いつしか思考が脱線していた。目の前のビデオテープが何であるか考えていたはずが、織田裕二の作品について考えていた。

いつまでも立ち止まってビデオテープを見続けているわけにもいかない。手を伸ばして裏返してみようかと思ったが、それがアダルトビデオで、しかもそんなところを誰かに見られたら恥ずかしい。何もしないのが無難だ。

私は雪が溶け始めた道を歩き出す。

ふと「湘南爆走族の同時上映は『本場ぢょしこうマニュアル』じゃなかたっけ?」と思ったものの、調べたらそれは『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎行進曲』の同時上映であった。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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