2024.7.12
宇宙環境は精子に異常をきたす? 宇宙移住が持つ危険性
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今、まさに国際宇宙ステーションでは、過酷な宇宙空間でヒトを含む他動物の生殖の可能性を探る実験が行われています。
このミッションは、2024年3月に地球に帰還した日本人宇宙飛行士の古川氏が担当していたことでも注目されていました。
連載にも書きましたが、国際宇宙ステーションは地球上ではできない巨大な実験室で、宇宙飛行士はこれを担当する作業員です。
宇宙という、地球とは全く異なる環境でしかできない実験を行っているわけです。
生殖の可能性を探る実験とは、精子の元となる「GS細胞(精子幹細胞)」に着目したものです。
GS細胞は、精巣に移植することで再び精子を作り出す能力をもっていることがマウスでの研究によって確認されています。このGS細胞自体が宇宙空間にいるときにどのような影響を受けるのかを調べているのです。
さらに宇宙空間から再び地球上にGS細胞を戻し、同じように精子を作り出す能力や生殖能力が認められるかも実験が行われます。
これが成功すれば、宇宙空間での人間の種としての生き残りにも大きな可能性を残すので期待が集まっています。まだ実験中なので、ポジティブな成果が出ること祈ります。
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宇宙で行う研究は、研究者がその実験の実現性と重要性をまとめて申請して、競争に勝ち残ると国際宇宙ステーションで実施できます。
そこには「研究が残しうるインパクト」や「実現可能性」「独自性」が求められます。私も数百億円規模の人工衛星を利用する申請を何度も行ってきましたが、正直もうやりたくないと思うぐらいハードな業務でした。
申請のために、研究者は数日間この業務だけに集中することになります。それくらい研究者の仕事の中でも重要性の高い仕事の一つです。
話を精子に戻すと、過去には精子の冷凍保存実験が宇宙で行われたことがあります。
2013年から約6年、国際宇宙ステーションで保存したマウスのフリーズドライ精子を地球に再び回収。受精卵をつくった結果、健康なマウスが生まれました。つまり、精子のフリーズドライ保存が宇宙空間において有用であることがわかり、今後宇宙空間に長期的に人類が滞在するとき、精子を冷凍保存することが子孫繁栄に利用できることが期待されています。
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このように精子の研究はマウスを利用して行われています。倫理的な問題点を指摘する方もいると思います。近年はこのような研究提案には厳しい倫理規定とそのチェック項目が明示的に存在します。
上で書いた研究申請の段階で、この研究倫理のチェックも行われます。国によってその規定は異なりますが、その点がおさえられていることだけ留意いただきたく思います。
今後の宇宙開発の加速の中で、必ず直面する生殖に対する課題。
この課題に対応するための研究は確実に進んでいるものの、今の民間を巻き込んだスピーディーな宇宙開発のスピードと比較するとゆっくりにも見えます。
健康面での課題に不安が残る中で宇宙移住することはなかなか難しいと考えられるので、今後この分野の研究が加速していくことに期待したいです。そして、宇宙生まれ宇宙育ちの人類がいずれ大活躍している姿を楽しみにしていきたいです。
アメリカカリフォルニア州ロシアン・リバー・ブルワリーの「PLINY THE ELDER」。鮮度へのこだわりなどから、基本的に少量生産で販売されているレアなビール。限られた環境の中でこそ真価を発揮するビールと、今回のエピソードの外環境から受ける厳しい制約とのシンパシーを感じて選んだ一本。苦味と、フレッシュなホップのアロマのバランスが特徴で、非常に口当たりの良い一杯です。伝説のビール、見かけたら必ず手にとってほしいです。
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次回連載第18回は7月26日(金)公開予定です。
参考資料
宇宙放射線/JAXA 宇宙教育センター
放射線被ばく管理/JAXA 宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター 2013年7月2日
第69/70次「きぼう」長期滞在ミッション 197日の記録/JAXA 有人宇宙技術部門
国際宇宙ステーション「きぼう」でのマウス飼育 により宇宙滞在が精子受精能力に及ぼす影響を解析/大阪大学微生物病研究所
宇宙環境が精子幹細胞の繁殖能力へ及ぼす影響の解析/JAXA 2022年4月4日
宇宙放射線に6年曝露された精子からマウス誕生/AstroArts 2021年6月16日
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