2024.7.12
宇宙環境は精子に異常をきたす? 宇宙移住が持つ危険性
この連載では、独立行政法人理化学研究所、NASAの研究員として研究に携わった経験と、天文学分野で博士号を取得した知見を活かし、最新の宇宙トピックを「酒のつまみの話」になるくらい親しみやすく解説します。そして、宇宙と同じくらいお酒も愛する佐々木さんが、記事にあわせておすすめの一杯もピックアップ。
今回は、宇宙環境における種の保存の可能性について。実は精子は宇宙環境の影響を大きく受けることが分かっているそう。宇宙移住の可能性をより高いものにするために、今、まさに宇宙と地球で研究が行われています。
第17回「宇宙と精子」のはなし
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宇宙移住への可能性を広げる! 種の保存にむけた研究の最前線
アポロ計画から約60年が経ち、再び人類が月面に降り立とうとしている今の宇宙開発。その先の未来に待っているのは「宇宙移住」です。短期間の滞在であれば問題は少ないですが、ずっとそこに住み、社会を形成し、子孫を残すことまで考えると実はまだまだ大きな課題が残っています。
これまでの研究で、特に精子に異常をきたすことが明らかになっており、この問題をしっかり解決できなければ宇宙で人類が繁栄していくことはなかなか難しいのかもしれません。そこで今回は、宇宙空間における精子についてお話していこうと思います。
宇宙開発が加速していく中で、宇宙で人が生活していくことをリアルに考えていく流れがどんどん強まっています。JAXAでは「THINK SPACE LIFE」いうプロジェクトが発足しており、宇宙での健康管理や衣食住など生活の質に対して本気で向かい合い始めていたりします。このプロジェクトに資生堂やJALなど230社を超える企業も参入して盛り上がりを見せています。
その先にあるのは、宇宙を拠点にしてそこで生きていき、子どもを産んでさらに生活圏が広がっていく未来です。大きな基地ができて、そこでストレスのない生活ができるようになることも大きな条件ですが、当然簡単にはいきません。
技術面でももちろんですが、大きな懸念事項の一つとして挙げられるのは、宇宙にいることで特に精子に異常がおきやすい、ということ。
宇宙空間では人間が子孫を残していくことは難しいと考えられています。
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その理由は「放射線」です。宇宙空間はX線などの放射線が強いです。
地球上にいて私たちが気になるのは紫外線による日焼けぐらいです。大気によって守られているので、放射線はそこまで気にする必要がありません。
けれどひとたび大気の外に出ると、宇宙空間は放射線で溢れている危険地帯でもあります。JAXAやNASAはそれぞれ宇宙飛行士が一生で受けていい被曝量を独自に設定しており、それによって宇宙での活動の限界が決まっています。それだけ危険な場所ということです。
医学的に、精巣は放射線に敏感な組織として知られています。宇宙環境での動物を対象とした研究でも精子形成の異常が確認されていて、人間が宇宙環境で子孫を残していくことが難しいのではないかと懸念されているのです。
そんな中で、どうすれば子孫を残すことができるのかを探索する実験が世界中で数多く行われていて、日本もその成果を出してきています。
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