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イーロン・マスク率いるSpaceXが展開するサービス「Starlink」をどこよりもわかりやすく解説

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「衛星コンステレーション」は宇宙ビジネスだけでなく天文学の分野でも活用が検討されています。これまでは大型の衛星を一つ打ち上げ、それによって科学やビジネス分野の発展を推し進めていました。衛星技術のノウハウが広く浸透したことで製造コストが比較的安価になり、その結果複数の衛星を組み合わせる手法が広まり始めました。この時代の変化に伴う技術発展は、今後様々な分野への恩恵をもたらすと期待されています。

例えば私が専門とする天文学では、この衛星コンステレーションを利用した夢のような構想が進んでいます。それは、宇宙空間に広がる複数の人工衛星を組み合わせて1つの天体を観測し、類を見ない精度を実現しようとするものです。これまでの科学衛星は、1つの人工衛星を大型化していくことで発展してきました。しかし、この衛星コンステレーションの技術を導入することで未知の観測領域に到達することが期待されています。この実現には、今後もっと精度高く衛星を制御し、隊列を組ませることが重要だと言われていて、その課題の解決に研究者たちは今も取り組んでいます。

「衛星コンステレーション」は天文学と組み合わせてもおもしろい技術で、ワクワクする一面もありますが、悪影響も世界中で叫ばれています。馴染みのない言葉かもしれませんが、それは「光害」(ひかりがい)と言われています。

光害は、人工的な光が夜間の自然な暗闇を乱す現象で、星空や天体観測への影響が深刻です。例えば、地球上の都市部や開発地域では、街灯や建物から発せられる強い光が大気中の微粒子と反応し、空を明るく照らし出します。このため、星々や天体の光が遮られ、観測者は本来見るべき美しい夜空を見失うケースがあります。

環境や人体への悪影響も懸念されています。光害は生態系や生物の行動パターン、人間の生活リズムや健康をも乱す可能性もあるのです。地球上で生きる生物たちにとって、光は体を律する重要な役割を担っており、それを人工的な光が阻害すると考えられています。明るすぎる光が天体観測を困難にし、研究や観察の制約を生むばかりでなく、人間が本能的に感じる夜空の美しさや宇宙への感動や興奮さえ奪いかねません。

天文学の研究に携わっていた私の目線では、人工衛星が発する光が科学的調査の妨げになるリスクが気になります。

特に、数多くの衛星が地球の周りを飛び交う状況では、その影響が顕著となり、実際にStarlink衛星が天文観測中の望遠鏡の視野に入り込む事例が発生しています。天文観測では、同じ天体を数時間見続けることがよくあります。地球を覆う形で衛星が配備されると、その視野にStarlink衛星が干渉する可能性は低くありません。目で見てそれらが把握できる程度であればいいですが、原因不明の天体の光の増減として研究者を惑わす可能性があるのです。

SpaceXはこの問題に真剣に取り組んでおり、天文学者の団体等との協力体制の強化を行っています。具体的な対策も行われており、衛星の向きを変更する実験や、衛星表面を黒く塗り太陽光の反射を抑制する取り組みも行っており、夜間の輝度を減少させる試みを実施しています。

このように、SpaceXはStarlinkにおいては地上との協力を大切にし、同時に宇宙空間における新たな課題にも真剣に向き合っています。このバランスが、宇宙開発と科学研究の健全な進展を支えています。

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佐々木亮

ささき・りょう
理学博士。独立行政法人理化学研究所、NASAの研究員として研究に携わり、その経験と知見を生かし、ポッドキャスト「佐々木亮の宇宙ばなし」を毎日配信している。旬の宇宙トピックスを親しみやすく解説する内容で注目を集め、Apple Podcast日本ランキング3位を達成。第3回Japan Podcast Awardsも受賞する。現在はデータサイエンティスト、中央大学講師として活動している。
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