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イーロン・マスク率いるSpaceXが展開するサービス「Starlink」をどこよりもわかりやすく解説

1日10分、毎日更新されるポッドキャスト「宇宙ばなし」が人気を呼び、注目を集める佐々木亮さん。

この連載では、独立行政法人理化学研究所、NASAの研究員として研究に携わった経験と、天文学分野で博士号を取得した知見を活かし、最新の宇宙トピックを「酒のつまみの話」になるくらい親しみやすく解説します。そして、宇宙と同じくらいお酒も愛する佐々木さんが、記事にあわせておすすめの一杯もピックアップ。

今回は何かと話題のイーロン・マスクが展開しているプロジェクトについて。
この話を読むと、彼のビジネス構想と野望のスケールの大きさに驚かされます。地上の「X」のことなんて、彼にとってはちっぽけなことだったりするのかも……!?

1日の終わりに、リラックスしながら夜空のその先の世界へ思いをはせてください。

第4回 「世界からインターネット圏外がなくなる」はなし

地球の周りに42,000機の人工衛星を配備! イーロン・マスクは考えることが規格外

宇宙企業と聞いて「SpaceX」が頭に浮かぶ人は多いでしょう。彼らの活躍はロケットの打ち上げ事業で世界中に知られています。その一方でSpaceXがその存在感を新たに発揮しているプロジェクトがあります。それが「Starlink(スターリンク)」です。もしかしたらあなたも一度は聞いたことがあるかもしれません。大まかに説明するとこのプロジェクトは「世界のインターネット格差を無くす」取り組みです。今回は宇宙からインターネットを届けるサービス、Starlinkの特徴を、そのメリットだけでなく懸念点もあわせて研究者目線で見ていきます。

Starlinkは、イーロン・マスク氏が率いるSpaceX社が展開する、世界中に高速で低遅延のインターネットを提供する大規模なプロジェクトです。地球を覆うように低軌道衛星ネットワークを構築することを目指しており、最大で42,000機の人工衛星を配備することを目標としています。この大規模な衛星網を構築する大きな目的の一つは、「世界中から圏外をなくす」こと。このスケールが桁違いのアプローチは、彼らにしかできません。

SpaceⅩ社が開発したロケット、ファルコン9。NASAをはじめとする人工衛星打ち上げに使われている。搭載されているブースターは打ち上げ後地上で回収され、再利用が可能。
SpaceⅩ社が開発したロケット、ファルコン9。NASAをはじめとする人工衛星打ち上げに使われている。搭載されているブースターは打ち上げ後地上で回収され、再利用が可能。

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2023年時点で、地球上の約30億人が未だにインターネットに日常的に接続できる環境にないと言われています。特に辺境の地や途上国では通信インフラの整備が難しく、世界中すべての人が快適にネットを使えるわけではありません。また、輸送手段が発達した地球上においては空や海にも未だインターネットからは隔絶された世界が広がっています。Starlinkはこうした地域において、ブロードバンド接続を通じてインターネット格差を縮小し、全世界での恒常的なインターネットアクセスを目指しているのです。

Starlink衛星はこれまでに5,400機以上(執筆時2023年11月)が軌道に投入され、世界各地でサービスがスタートしています。技術的な特徴は、低軌道に配置された小型衛星と地上設備との連携にあります。通常の通信衛星が静止軌道にあるのに対し、Starlinkの低軌道(LEO)衛星は地球周回軌道を高速で回るため、地上との距離が近く通信がより迅速に行われるのです。このように低軌道に大量の衛星を配置し、それらを組み合わせて1つの大きな仕事をさせるStarlinkのようなスタイルを「衛星コンステレーション」といいます。

衛星はそれぞれ目的に応じた軌道が選択され、代表的なものが低軌道、中軌道、静止(高)軌道衛星の3種。静止軌道衛星は赤道上を軌道にし、地球の自転と同じ周期・方向で動くため、地上からは同じ位置に見えることからこう呼ばれており、主にBS放送や気象衛星などに使用されている。(イラスト/加藤豊)
衛星はそれぞれ目的に応じた軌道が選択され、代表的なものが低軌道、中軌道、静止(高)軌道衛星の3種。静止軌道衛星は赤道上を軌道にし、地球の自転と同じ周期・方向で動くため、地上からは同じ位置に見えることからこう呼ばれており、主にBS放送や気象衛星などに使用されている。(イラスト/加藤豊)
「衛星コンステレ―ション」のイメージ図。地上から距離が一番近い低軌道衛星は、通信速度が速いということがメリットの一つ。連携させることでより地上の広範囲をカバーすることができる。(イラスト/加藤豊)
「衛星コンステレ―ション」のイメージ図。地上から距離が一番近い低軌道衛星は、通信速度が速いということがメリットの一つ。連携させることでより地上の広範囲をカバーすることができる。(イラスト/加藤豊)

この大規模展開が可能となっている背景には、SpaceX社がロケット事業も手がけていることが大きく関係します。

一般的な宇宙企業が開発した衛星を打ち上げる場合、ロケットの打ち上げプロジェクトと提携する形で、お金を払って搭載してもらう方法をとっていました。一方、SpaceXは自社で作った衛星を自社のロケットで打ち上げることができます。そのため打ち上げ頻度やペースも自分達である程度制御できる点が、彼らの大きなメリットです。それによってこの大規模なプロジェクトがスピーディーに進んでいるのです。日本でも2022年10月にサービス利用が可能となりました。

余談ですが、SpaceXにはロケットの再利用を積極的に行っているイメージがあると思います。そして世の中では今、ロケットの再利用をできるようになったことが、コストの低下に繋がったと思われている節があります。しかしそれは誤解です。これは宇宙業界に近い人ですら、勘違いしている人が多かったりします。実際のロケットのコスト低下の理由は、製造プロセスの変更です。SpaceXはまさにこれに取り組んできたのです。つまり、ロケットを自社で開発することでコスト削減を進めることができた。このことが大きな理由の一つとなり、繰り返しロケット打ち上げに挑戦できるビジネスモデルが出来上がっています。

ではなぜ、同時にロケットの再利用も重要視されているのでしょうか? 実はここには、将来人類が月や火星に行った後の世界でのインフラを握ろうとするSpaceXの思惑があると言われています。この辺りは連載の中でまとめてみても面白いかもしれませんね。

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佐々木亮

ささき・りょう
理学博士。独立行政法人理化学研究所、NASAの研究員として研究に携わり、その経験と知見を生かし、ポッドキャスト「佐々木亮の宇宙ばなし」を毎日配信している。旬の宇宙トピックスを親しみやすく解説する内容で注目を集め、Apple Podcast日本ランキング3位を達成。第3回Japan Podcast Awardsも受賞する。現在はデータサイエンティスト、中央大学講師として活動している。
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