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『鬼滅の刃』「蛇の呼吸」の真実を生物専門家が解説。最強の呼吸法を持つ動物は!?

最強の呼吸器官を持つのは鳥

ヘビが独特な気管で呼吸をしていたように、動物それぞれ、身体や環境に合わせた独自の呼吸法を持っています。
私が個人的に、脊椎動物(魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類)の中で最強の呼吸器官を持っていると思うのは、鳥です。

鳥の肺には気嚢きのうというポンプの袋がついています。
先述したヘビの「嚢状肺」と同様の器官です。

しかし、鳥の場合、肺の後方だけでなく、前方にも複数の気嚢がついています(下記のイラストは簡略化したもの)。前方のものたちは「前気嚢ぜんきのう」と、後方のものたちは「後気嚢こうきのう」と呼ばれていて、それぞれが連動して収縮・拡張を繰り返します。
これにより、取り込まれた空気は、肺を素通りして一番奥にあたる後気嚢へ。そして、次に肺を通って前気嚢へと向かい、気管を通って体外に排出されます。

気嚢がポンプとなり、呼気(青矢印)吸気(赤矢印)が行われる。肺の内部は常に一定方向に空気が流れる(緑矢印)。(イラスト/大渕希郷)
気嚢がポンプとなり、呼気(青矢印)吸気(赤矢印)が行われる。肺の内部は常に一定方向に空気が流れる(緑矢印)。(イラスト/大渕希郷)

このように、肺の前後に気嚢というポンプを備え付け連動させることで、空気をスムーズに一方通行に流すことができるため、他の動物よりも無駄なく効率的にガス交換ができるのです。

人間は高山を登山するとき酸素ボンベを必要としますよね?
そんな山の上空を悠々と飛んで行ける鳥がいるのは、この優れた呼吸機能があってこそ。
アネハヅルに至っては、上空5000~8000mを飛ぶことが知られ、ヒマラヤ山脈を越えてゆくほどです。
我が師・京都大学名誉教授の疋田努ひきだつとむ先生によれば、飛行性の哺乳類であるコウモリに夜行性が多いのは、昼間の生活では鳥類に太刀打ちできないからだろうとのこと。
それほど、哺乳類と鳥類では呼吸に関する基本スペックが違いすぎるのです。

もし私が鬼滅の剣士だったら、鎹烏かすがいがらすを師匠に「鳥の呼吸」を身につけたいなと思います(僕、気嚢をもたない哺乳類だけどできるのかな)。

●主な参考文献
吾峠呼世晴(2021年)「鬼滅の刃 公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐」集英社
岩堀修明(2014年)「図解 内臓の進化 形と機能に刻まれた激動の歴史」講談社ブルーバックス
疋田努(2002年)「爬虫類の進化」東京大学出版会

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大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

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