2021.2.28
『鬼滅の刃』「蛇の呼吸」の真実を生物専門家が解説。最強の呼吸法を持つ動物は!?
最強の呼吸器官を持つのは鳥
ヘビが独特な気管で呼吸をしていたように、動物それぞれ、身体や環境に合わせた独自の呼吸法を持っています。
私が個人的に、脊椎動物(魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類)の中で最強の呼吸器官を持っていると思うのは、鳥です。
鳥の肺には気嚢というポンプの袋がついています。
先述したヘビの「嚢状肺」と同様の器官です。
しかし、鳥の場合、肺の後方だけでなく、前方にも複数の気嚢がついています(下記のイラストは簡略化したもの)。前方のものたちは「前気嚢」と、後方のものたちは「後気嚢」と呼ばれていて、それぞれが連動して収縮・拡張を繰り返します。
これにより、取り込まれた空気は、肺を素通りして一番奥にあたる後気嚢へ。そして、次に肺を通って前気嚢へと向かい、気管を通って体外に排出されます。
このように、肺の前後に気嚢というポンプを備え付け連動させることで、空気をスムーズに一方通行に流すことができるため、他の動物よりも無駄なく効率的にガス交換ができるのです。
人間は高山を登山するとき酸素ボンベを必要としますよね?
そんな山の上空を悠々と飛んで行ける鳥がいるのは、この優れた呼吸機能があってこそ。
アネハヅルに至っては、上空5000~8000mを飛ぶことが知られ、ヒマラヤ山脈を越えてゆくほどです。
我が師・京都大学名誉教授の疋田努先生によれば、飛行性の哺乳類であるコウモリに夜行性が多いのは、昼間の生活では鳥類に太刀打ちできないからだろうとのこと。
それほど、哺乳類と鳥類では呼吸に関する基本スペックが違いすぎるのです。
もし私が鬼滅の剣士だったら、鎹烏を師匠に「鳥の呼吸」を身につけたいなと思います(僕、気嚢をもたない哺乳類だけどできるのかな)。
●主な参考文献
吾峠呼世晴(2021年)「鬼滅の刃 公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐」集英社
岩堀修明(2014年)「図解 内臓の進化 形と機能に刻まれた激動の歴史」講談社ブルーバックス
疋田努(2002年)「爬虫類の進化」東京大学出版会