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スズメバチに刺された悲劇の夜…秋は攻撃性が増すので要注意!

針を持っているのはメスだけ

さて、私自身、身をもってハチ毒の威力を体験したわけですが、その毒針どくしんは「産卵管」が変化したものです。
だから針を持っているのはメスだけ。オスは針を持っていません

ハチには「真社会性」といって、妊娠しない階級がある社会をつくる種類もいます。この場合、繁殖を行うのは女王のみです。
そして、働きバチはすべてメスで、毒針を持っています。

私を刺したスズメバチ類も真社会性のハチで、針を持たないオスバチは特定の時期にしか生まれません。そのうえ、全く働かないので、我々が遭遇することは少ないと思います。
仮に出会ったとしても、雌雄の判別は困難な場合がほとんどですから、やはりハチには不用意に近づかない方がいいでしょう。

ともかく働きバチたちは、自衛のために毒針をつかって外敵を攻撃します。特に、日本最大のハチであり、スズメバチ科では世界最大、近年ではアメリカに外来種として侵入し被害が出ているオオスズメバチの場合、攻撃性も高く、注意が必要です。

オオスズメバチは、他のハチ類を含む昆虫類などを襲い、生きたままかみ砕いて幼虫に与える肉団子を作ります。
特に、秋口はエサとなる昆虫類が減る上、繁殖関係で多くのエサが必要となるために攻撃性が増すとされています。『HUNTER×HUNTER』のキメラアントと似ていますね。
巣は一般的なハチのイメージと異なり、木の根元などの土中や床下、屋根裏など閉鎖空間を好みます。もし、彼らを発見しても十分な距離を取り、決して刺激しないようにしましょう。

慌ててはらうのは逆効果

では、刺激したらどうなるか? 
防護服で完全装備したミツバチ研究者の先輩が、オオスズメバチからミツバチを守るところを見学させていただいたことがあります。
捕虫網でオオスズメバチを捕らえるわけですが、空振りしたときなど、カチカチ、カチカチとオオアゴを鳴らして威嚇してくるそうです。
「あの音を聞くとアドレナリン出まくりだよ」と先輩。ハチたちの攻防は興味深かったです。
もし専門家と同行できる機会があれば、ハチ観察もきっとおもしろいですよ!

もちろんどんな場合でも油断は禁物。刺されないようにすることが一番です。
ハチが人を刺すのは自衛目的ですから、刺されないためには、むやみに巣に近づかないこと。そして、もしハチを見つけても慌てず騒がないこと。ここで慌ててハチをはらったりしてしまうと、攻撃したとみなされてかえって刺されるリスクが高くなってしまいます。

万が一刺された場合は病院へ。私が病院へ行かなかったのは、行きたくでも行けない状態だったからで、あの状況で無事に帰れたのは本当に幸運だったと思っています。

以上、経験者から、痛みを伴った教訓の紹介でした。

●主な参考資料
森林総合研究所「森林レクリエーションでのスズメバチ刺傷事故を防ぐために」
船山信次『毒』PHPサイエンスワールド新書

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新刊紹介

大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

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