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鈴木涼美「×××な男~酒と泪とオトコと美学」

絶対とは絶対言わない男〜結局いい男が好きなわけでもない話

ここにひとしおの毒を添えるのは結構ラクである。

第一に、絶対を言わない限り人は人を否定していないように見えて、自分が否定されるリスクからも逃げる卑怯さがあるし、若いうちから負けない戦してたら負けを知らないから結果的に敗者に対する想像力が欠落するし、愚かさを取り入れないカンバセーションは他者に劣等感を抱かせる。
第二に、恋愛においては特に人は正しさを超えた言葉を欲しがるので、絶対とか言わない男は女を不安にさせるし、少なくとも絶対なんてことがおこらないことは分かってるのに絶対って言ってくれる男にありがちな根拠の無い色気はない。
何より、焚き火を囲んだ会議の議題になるほどの人格者は、女の好物である、人の惨劇の登場人物となって悪口フルボッコにされる、とか、愚痴や悪口や「あなたは悪くないよ、彼が全部悪いよ」的な会話の生贄にされる、という機能には優れない。「何が悪いかよくわかんないんだけど、何か不安」と芥川みたいなわけのわかんないことを言う羽目になり、「彼がひどい男なわけではないんだけど、うまくいかない」と歯切れの悪いオチしかつかない。

私が夜空と炎のあいだにそういうヒガミに近いひとしおの毒、というかひとしおのケチをつけていると、その星と焚き火でやや明るく見える夜空には多くの少女の顔が浮かび、彼女たちの多くがフィクションでもノンフィクションでも良い人をフッてだめな男や危険な男についていっていることを思い出させた。
そして、結局私たちは30半ばを男の非道を責めるのは好きだし、男の被害者になった女に同情して一緒に戦うふりをするのは好きだけど、人道的な正しさなんて欲していないし、人格者が好きなわけでもないし、もはや幸福になりたいわけでもないような気がして、とにかく絶対私たちは愚かさを抜け出さないのだな、と私が結論を急いでいたところ、話はその「絶対」を言わない彼の恋愛の話になった。

女は正しさなんか求めてないし、良い男を愛するわけじゃない
女は正しさなんか求めてないし、良い男を愛するわけじゃない

彼いわく、去年からちょっといい感じになった女の子とは外でデートを重ねたものの、部屋が散らかっているという理由で彼女の部屋にはなかなか入れてもらえず、一回酔い潰れた彼女を部屋の前まで送った際には帰ろうとしたらドアの向こうで何か言い争う声が聞こえ、聞けばどうしてもお金がないから暴力の激しい男の家に住まわせてもらっていると言うから30万貸して引っ越しを援助したけど今度も部屋に彼を招き入れることもなく、ダンスの勉強のために海外に行くのだけど米国に行くお金はないからフィリピンに行くことになり、前に同じ地区のダンススクールに留学した子は近所でレイプされたらしくて怖い、というので40万貸して米国に行かせるか迷う、とのこと。

絶対貸さない方がいいし愛を期待しない方がいいけど、彼に絶対はないので仕方ない。
ひとしおの毒なんて意地悪に添える必要もなくこの世はちゃんとクソなので、クソじゃないっぽい男にもクソな女がついてちゃんとクソをつけていってくれるんだな、と妙に納得した夜だった。

大好評の本連載ですが、残念ながら今回をもって最終回となります。前連載「○○○な女〜オンナはそれを我慢している」と再編集し、パワーアップして今夏書籍化の予定ですので、どうぞお楽しみに!
そして、3月3日より、テーマも新たに新連載がスタート予定。古今東西にはびこるあれやこれやを涼美節全開で評していきます。こちらもぜひご期待ください!

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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