よみタイ

絶対とは絶対言わない男〜結局いい男が好きなわけでもない話

○○○な女〜オンナはそれを我慢している」のアンサーソングともいうべき新連載は、気鋭の文筆家・鈴木涼美によるオンナ目線の男性論。とはいえ、ここで取り上げるのは現代を生きる「今」のオトコたちの生態事情。かつてはもてはやされた男性像が、かつては相手にもされなかった男性キャラが、令和の今、どんな進化・退化・変遷を遂げているのか? 冴え渡る涼美節・男性論に乞うご期待!

今月の初めに久しぶりに会った大学時代の友人が、Ph.D留学中にすごく感じのいいアフリカ系混血のフランス人と恋仲になり、毎回デートするたびに「きみは僕が生きてきた中で起こった一番のミラクルだ」的なことを言われてセックスもアメイジングでお互い研究者だから大してお金はないけど次のバケーションには絶対モロッコに行こうとか言っていたのにある時家に行ったらそこには別の女が来ていてあわや修羅場というところで彼女の機転でうまく切り返して血生臭いことにはならなかったんだけど、自転車を押して泣きながら歩いて帰っていたら、彼から「さっきはびっくりしたよ。たしかに僕にフィアンセがいることはまだ言ってなかったかもしれないけど彼女は明日から出張で上海に行くから今夜は22時には自宅に戻るようだから、22時前までどこかで時間潰しててよ! そうしたらその後からは一緒に過ごせるし泊まっていってくれてオッケーだよ!」というメッセージを受信したという話をしていた。

その前の月には豪州に住んでいた友人に、3年間ほぼ同棲していた19歳上の恋人が2週間のロングバケーション初日の朝に行方不明になって、あと5分で自宅を出なければ飛行機に間に合わないというタイミングで帰ってきて、すでにタクシーを自宅前に止めていた彼女が急いで彼と自分のスーツケースを押して出て行って二人で空港に向かうタクシーに乗っていたら、彼が急に今実は別の女の子の家に行ってきたんだけど、彼女は僕が2週間の長い出張に行くと思い込んでいて仕事の幸運を心から祈ると言っていた、そんな笑顔の彼女を裏切っているかと思うと、とてもきみと呑気にリゾートになんて行く気になれないから、やっぱり空港で食事をして引き返そう、いいかい、きみはすでにこの国に5年も住んでいて友人もたくさんいて仕事もサクセスフルだ、しかし彼女はつい去年この国に来たばかりで友人はみんな母国である韓国にいるし、19歳まで打ち込んでいたバレエに挫折した経験からまだ立ち直ってもいない、どんなに心細いだろう、それでも僕の出張を応援してくれるなんてきっと心では寂しくて泣いているんだ、と言われて旅行もナシになったほか、それまで同棲していたマンションを出て行くことになってしばらく安いホテル暮らしだった、という話を聞いた。

いろいろあって、シニカルで愚かな女たちでこの世界はできている

そんな話をこれまで随分してきたし聞いてきたし書いてきたような気がする。

ミスチルがドロップキックや水平チョップをするまでもなく秩序のない現代においてはそういった惨劇は世界各所で頻発していて、そういった惨劇を経て彼女たちが許すという心を知り、無条件の愛を知り、さらに一皮向けた素敵な大人になって、ついに本当の意味での愛という言葉の意味を教えてくれるような伴侶に出会って、あんな時代もあったねと笑って話せるかというとそんなことはもちろんなく、クソ男ばっかかよ全員死ねみたいな荒んだ心で一年くらい荒んだ生活をして、その後は一皮も二皮もすれた顔と性格になって、軽い絶望と器用な息抜きでなんとかサバイブしている。そして自分は死ぬほど傷ついたから人の傷に敏感になったということも特になく、気に入らない男については最早傷つけたなんて意識すらなく、むしろこっちが迷惑被った被害者ですと言わんばかりに一瞥して記憶から消去、次の日はかっこよくて魅力的だけど人の痛みを想像すらしない男で泣いて再び被害者ヅラして、自分の痛みには少しずつ慣れて、人の痛みには倍速で鈍くなって、そういうシニカルで愚かな女たちでこの世界はできている

世界を形作る愚女の一人として誇り高く生きてる私は、男も女も大体はぶっ壊れてるし社会はクソだし愛とかゴミ、とおおまかに言うと世界をそのように認識しているし、その半分は私の性格に大きな難があるからだけど、別に私は悪口を聞いたり言ったりして自分が偉くなったような気分を味わいたいのではなくて、私もクソだし小鳥も鈴もみんなクソな上でみんな最高だと本気で思っている。
だから人が素敵だという話は2分で終わらせるけど、人がゴミだという話は時間を割いて真摯に聞くし、やや全員の心中に「それってどっちもどっちなんじゃないか」とか「彼って実は結構いいヤツなんじゃ」という声がこだましていても、聞こえないふりして悪いのはヤツらだと敵意剥き出しの空気をつくり、愚痴ややっかみや下品な噂話には一切手を抜かず、そこにひとしおの愛を添えることだけは忘れずに、世界を信じすぎず憎みすぎず楽しんでいる。

 

この世は惨劇を上演するためにつくられた劇場なのかもしれない
この世は惨劇を上演するためにつくられた劇場なのかもしれない

ただ結構誰に聞いても「あの人はほんと人格者だよね」って言われる、人類史上稀に見るあんまりクソじゃないっぽい人間というのもごくたまにいて、こんな私でもそういう人の端的な人格者エピソードを聞く場面に遭遇することだってたまにはある。
そうなればちゃんと2分で時間を終わらせず真摯に聞くし、いくら私の性格が悪くてこの世が愚男愚女でできていても、忘れたふりして人間て素敵なものだと平和な空気をつくり、憧れや称賛や上品な批評に一切手を抜かず、夜空ノムコウに明日が待ってる的なヒューマニタリアニズムが必要な夜もきっとあると思う程度には私は優しい。
頭の中の小さな小さな部屋で、添えるべきひとしおの毒を探してはいるけれど。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中にキャバクラ嬢として働くなど多彩な経験ののち、卒業後は2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、世相に関するエッセイやコラムを多数執筆。
近著に『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』など
公式Twitter @Suzumixxx

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