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鈴木涼美「×××な男~酒と泪とオトコと美学」
○○○な女〜オンナはそれを我慢している」のアンサーソングともいうべき新連載は、気鋭の文筆家・鈴木涼美によるオンナ目線の男性論。とはいえ、ここで取り上げるのは現代を生きる「今」のオトコたちの生態事情。かつてはもてはやされた男性像が、かつては相手にもされなかった男性キャラが、令和の今、どんな進化・退化・変遷を遂げているのか? 冴え渡る涼美節・男性論に乞うご期待!

処女信仰男〜20歳の責任とるなら30代の責任とってほしい話

日本人の売春好きとロリコン趣味と素人愛については、風俗やポルノ業界などの報酬システムが、世界も驚愕の年功逆序列を作っていることでも明らかで、「業界のことなーんも知らない今日初出勤の完全素人ですよ。経験全くゼロ!なんと18歳!」という売り文句を聞いて財布が普段より緩むのは、水道工事を待つ客でも医者の往診を待つ患者でもパソコン教室に並ぶ生徒でもなく、出張先の名古屋あたりでウキウキとデリヘルに電話しているおっさんだけだ。
植木屋に電話してそんなことを言われて、「実に素敵! 通常料金に2割増しで支払おう!」なんていう人がいたら、なかなかの変態である。

処女信仰についてそれが存在すること自体はさほど不思議ではない

さて、夜の世界にいた時に、その逆序列の妙は十分に味わったのだけど、夜の世界にいるにはやや薹が立ちすぎてしまった現在の私は、AVのギャラがだだ下がって内容はスカトロ一歩手前まで過激になっていた頃とはやや別の角度から、そんなニッポンの性癖と対峙している。

要は、処女喪失してから20年に渡る切磋琢磨・技術鍛錬・紆余曲折・晴耕雨読が一瞬にして無価値なものであると一蹴されるのは、多分百戦錬磨のソープ嬢が勤続10年で給料を下げられるのと似たようなものなのだけど、ソープの客が嬉々として未経験新人に流れていくのと違って、36歳非処女の前を通り過ぎていく、特に売春中じゃない男たちは、キリッと眉を上げ、男気を醸し出しているのである。

確かガルシア・マルケスの小説に、嫁にいった妹だか娘だかが処女じゃないが故に返品されてきて、なんか色々あって殺人するみたいな筋書きのものがあった気がするけど、とりあえずヴァージニティというものが色々な社会で神聖視されてきたのは周知の事実ではある。

日本に関して言うと伊集院光氏らの啓蒙によってついでに童貞までちょっと文学みを帯びている節があってややこしいのだが、DTでもチェリーボーイでも童貞でもなんでもいいが、それらが男の、しかもほぼ当事者や当事者の気持ちが代弁できる男の大人たちによって勝手に価値を吹き込まれているだけなのに対し、処女の価値を見出しているのは圧倒的に当事者でも元当事者でもなく、当事者の性的なお相手になりたい人たちだと思うので、ここで童貞の無自覚な暴力性については棚上げにしておく。

年功逆序列の妙は自明のものとしても
年功逆序列の妙は自明のものとしても

だから処女信仰については、それが存在する、ということ自体にそれほど不思議はないし、誰だって何だって、例えば自分の作った料理でもしてあげたマッサージでも「前の人の方がいい」とか「これよくあるやつ」と言われるよりは、「こんなの初めてー」と言われたら嬉しいわけだし、私だって本を書いて「100回くらい読んだことある気がするー」と言われるよりは「こんな風に楽しいの初めて!」と言われたい。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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