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代理店系メンタリティ男〜独特のカタカナが名刺を彩ってる話

○○○な女〜オンナはそれを我慢している」のアンサーソングともいうべき新連載は、気鋭の文筆家・鈴木涼美によるオンナ目線の男性論。とはいえ、ここで取り上げるのは現代を生きる「今」のオトコたちの生態事情。かつてはもてはやされた男性像が、かつては相手にもされなかった男性キャラが、令和の今、どんな進化・退化・変遷を遂げているのか? 冴え渡る涼美節・男性論に乞うご期待!

底意地の悪い私は人の結婚式に出ても料理にケチをつけ新郎にケチをつけヤッカミを抱えて喫煙所にこもって、元祖絶望おじさんであるキルケゴールの「結婚するがいい、君は後悔するだろう」という言葉を脳内リフレインしながら、結婚を鳥かごにたとえたのは誰だっけ、と余計なことを考えているタイプである。

そして、あんまり席を外すのも変かなと思って重い足取りで元いたテーブルに戻ると、たいてい新郎の友人が「僕は学生時代からタカシくんと一緒に色々学びました! 英語、数学、酒の飲み方、女の抱き方〜」なんてそんなに面白くないスマートなスピーチをかましていたりする。

代理店系男への激しい偏見

20代のころや会社員時代に比べて結婚式に出席する機会はぐっと減ったが、時々、独身同士で傷を舐め合って意味のない連帯をしていた仲間が、ゴメンやっぱりこのままばーさんになって涼美とどっちが先に孤独死するかのレースはしたくないし、だいたいキルケゴールだって「結婚しないがいい、君は後悔するだろう」と続けたじゃないか、と言わんばかりに嫁いでいくことがあり、先日もそんな軽めの裏切りにあって仕方なくそんなことでもないと行かないマンダリンに行ってきた。

裏切られたこっちのほうが貰いたいという気持ちを抑えてご祝儀を払い、席次表で来てる知り合いをチェックして、新郎が喋り、主賓の誰かわからない偉そうなおっさんが「スピーチとスカートは短い方が」的なおそらくここ50年間くらい誰も笑ってないのに何故か踏襲されてる挨拶をして、こちらも誰かわからないが誰かの恩師っぽいおじさんの言葉で乾杯した後、しばしの歓談のあとに、よっ、待ってました的な空気とともに新郎の中高大の同級生が登場。
「○○くんの恋人は二郎のラーメンだけかと思っていましたが、こんなに綺麗な」と別にブスでもないが綺麗とも言い難い私の友人をヨイショして、感傷的すぎず、ふざけすぎず、かといって固すぎないスピーチで会場を沸かせていたとさ。

友人が結婚したのは4つ年下の、ちょっと無骨なメーカーの営業マンだが、彼がスピーチを委託したのは、光沢ピンクのネクタイをちょっと変わった結び方で身につけ、ポケットに指を引っ掛けて喋る、上品なわりには可愛げがあって、砕けてるわりには礼儀正しく、イケメンのわりには男ウケが悪くなさそうな広告代理店の男だった。

まぁでもしょうがないよ、D通だしね
まぁでもしょうがないよ、D通だしね

私は持ち前の卑屈っぽさで、「親友っていうより、一番フォトジェニックで喋りの巧みな同窓生って感じね、アレ」「今年入って結婚式スピーチ4回目って顔だね、あの男」と論評し、同じテーブルにいた男友達の妊娠中の新妻に嫌な目で見られた。

女子大生時代に、30前後の代理店の男たちに頼まれて何度も何度も飲み会をセッティングし、女友達から「こないだの飲み会のサカイさんが好きって言ってくれたから彼氏と別れたのに、急に連絡が冷たくなった」などのクレームを受け、自分も飲み会の合間を縫ってでもデートしたいなと思った男とうっかりお泊まりした翌朝、「俺、今は仕事モードで誰かと付き合うとかそういうのは全然考えられないけど、これからもたまに泊まりおいでよ」とか言われて、心と下着をすり減らして育った私は、女友達が彼氏や旦那に浮気されて凹んでいる時、「まぁでもしょうがないよ、D通だしね」というくらいには、代理店系の男への激しい偏見に溢れている。

ちなみに民放キー局や商社の男も似たようなメンタリティだと思ってるが、そっちは「まぁでもたまにはいい人もいる」くらいには思っている。

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新刊紹介

鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中にキャバクラ嬢として働くなど多彩な経験ののち、卒業後は2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、世相に関するエッセイやコラムを多数執筆。
近著に『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』など
公式Twitter @Suzumixxx

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