2026.9.8
バーテンダーも占い師も友人の悩み相談も、「空間」が重要。『昼間のスターゲイザー』から広がる「技術」の話【鏡リュウジ×千田歌秋対談・後編】
占い師がカードのシャッフルにこだわる理由
千田 技術の話で思い出しましたが、『昼間のスターゲイザー』の中でタロットカードのシャッフルについて話していますよね。東畑さんが「そんなにシャッフルにこだわる必要ある?」と疑問に思っているのがもっともで、面白かったです。
鏡 別に確率的にランダムじゃなくてもいいんじゃない? と東畑さんは疑問に思ったんですよね。千田さんは『鏡リュウジの実践タロット・メソッド タロット技法事典』でもシャッフルについてまるまる一章書いてくださったので、色々と考えたこともあるのではないでしょうか。
千田 そうですね。これには私なりの考えがあります。シャッフルにこだわるのは、ちょっと儀式的なんですよね。儀式とは自分の空間を特別にすることなので、つまりこれも空間作りの技術です。テーブルにクロスを敷いたり、呪術的な何かを並べたりすることで自分の世界観を作るのと同じです。
相談があって占いに来た人にヒアリングして、「転職したほうがいいかどうか占ってください」と言われた時、占い師がいきなりカードを引いてもうまく世界に入れないんです。お客様にシャッフルしていただいたりして、一緒に何かをしている感覚を共有することが大事。そうしてはじめて占いが占いになると思っています。
鏡 なるほど、占いの空間を作ることが大事だと。これはカウンセリングも近いところがありますよね。
エラノス会議という、ユングが主導的な役割を果たし、日本からは河合隼雄や鈴木大拙が参加した西洋と東洋のさまざまな思想をめぐる国際的な学術会議があります。このエラノス会議を一時牽引していたスティーブン・カルチャーという研究者の方と、ずっと昔にお話ししたことがあります。そこで彼からサイコセラピーと占いの違いについて問われ、当時の僕は素朴に「サイコセラピーやカウンセリングはクライアントが主に喋り、占いは占い師が主に喋りますよね」と答えました。すると彼は笑って「両方とも喋るのは神々じゃないか」と言ったんです。つまり、場が喋っているんだということですね。
千田 なるほど。場が喋っていて、我々は喋らされている。
その視点は重要ですね。私が喋っているんだ、この占いは私のものだと思いはじめると、自分が神になっていってしまうので危険です。
鏡 傲慢さが出てきますよね。反対に、「私は神様に使われているだけですから」っていうのも怖いです。これはこれで、結果的に「私=神」になるので。
「私が」やっているんだけど、私だけのものでもないという感覚が必要です。そう考えると、占いが「当たる」って、すごくいい表現。私が「当てている」わけじゃない。能動態でも受動態でもない、中動態的な言い方ですよね。
千田 占いが「当たる」時、そこには占い師だけではなくて占われるお客さんがいます。占い師がすごいから当たるわけではなくて、お客さんの参加によって当たる側面があるわけですよね。そもそも、占いが後々当たるためにはお客さんの行動なしには成り立たないですし。
鏡 付け加えると、占い師とお客さんの二者関係だけじゃなくて、その日の天気とか、それまでのいろんな流れ、ご縁みたいなものが相互的に働いて、占いが当たる体験が生じます。この本の中で何回も出てくる「自生性」でもありますね。
とはいえこうした感覚は、曖昧さの中でしか語れないものでもあります。その「トワイライト」な占いの側面に、『昼間のスターゲイザー』では迫ることができたと思っています。
了

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