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神々からのメッセージを読み解く占いは、世界を分類する理性的な部分と非理性的な部分の境界にある【 新刊『昼間のスターゲイザー』試し読み】

占星術 ――世界を縮約するということ

  このテンプレ化の最たるものが占星術です。もともと、占星術もオーメンからはじまっています。オーメンとは予兆。僕たちも「黒猫が前を横切ったのは何かのしるし」と感じてしまうでしょ。こういうのがオーメン。古代では日食や月食、雷などが重要なオーメンでした。昔は天空界で起こることと気象現象の区別がついていなくて、どちらも空を通したメッセージと捉えられていたのだと思います。
 古代バビロニアではとくに天体観測が発達しました。その記録の蓄積が占星術のベースになっていきます。もともと太陽や月、惑星は神々そのものだと考えられていて、その気まぐれに見える動きが「オーメン」であると感じられたのでしょうが、天体観測を続ける中で、一定の周期を持つものだとわかってきた。カオスからコスモスへの転換が起こってくるわけです。気まぐれな神々の遊行が周期的な宇宙の運行となっていったんでしょう。それがギリシャの自然学と結び付くと、さらに体系化が進む。テンプレ化です。

東畑 なるほど。占いの理性的な側面が自然の理解へとつながっていく。

  占い好きな方はご存じだと思いますが、占星術では「ホロスコープ」という、ある瞬間の太陽系の星の配置を円形の図表にしたものが重要になります。ここでは、天を黄道十二宮という十二の星座に分けた区分と、ハウスと呼ばれる十二の区画を用います。黄道十二宮は太陽や月、惑星がどの星座に位置するかを、ハウスはそれらが人生のどの分野に影響を及ぼすかを示し、占星術ではこれらの位置や惑星同士の角度(アスペクト)から占います。ハウスの「区画に分ける」という発想、そしてその意味の配当には、鳥占いや肝臓占いがアイデアのもとになったのではないかと考える学者もいます。

東畑 面白い。世界が無秩序に満ちていると諦めるだけではなく、なんらかの秩序を読み取って、運命をコントロールしていこうとする発想があるということですよね。

  この世界を縮約するということなんですよ。高度に体系化された占いは、一見複雑に見えますが、実は使っている要素が少ないんです。たとえば古代中国の易なんかは究極で、陰と陽の二つの要素の組み合わせで森羅万象を説明します。占星術なら十二星座と十二ハウス、七惑星。タロットだったら二十二枚だけでいける。かなり限られた要素で、この複雑極まりない世界や人生全部を説明し尽くせると考えている。

東畑 混沌と縮約。僕の日々の仕事のことを思い出します。カウンセリングって、初回面接がすごく大事なんです。病院でいう初診ですね。
 なぜかというと、基本的にクライエントはめちゃくちゃ混乱してやってくるわけです。不幸なことが起きて、どうすればいいか、何が正解なのかわからなくなっている。そういう人の話を四〇分ぐらい聞いて、何が起きているのか、どの方向に向かえばいいのかを明らかにするのが初回面接のもっとも重要な仕事です。
 そこで僕らが使うテンプレートの一つが、うつとか発達障害とかトラウマといった精神医学的なカテゴリーです。ひとまず「うつだな」という大きなマッピングをする。すると、「お父さんが亡くなられたことで喪失感が大きいのだけど、自分でもそれに気付かなくて、色々ともがいているうちに眠れなくなり、消耗し、うつになっているように思う」みたいな物語が生まれてくる。こういう説明がしっくりくると、ひとまずその人の中で自分の問題がマッピングされて、今後の治療方針と目標を話し合うことができる。
 これって、縮約する作業そのものなんです。その人の心の全部は、四〇分じゃ絶対にわからない。それでも、ひとまず混沌を縮約し、大まかな見通しを一緒に持つことでクライエントは安心できる。

  カウンセラーの方がよく「見立て」と仰っていることでしょうか。占いでは顧客の状況を星やカード、易のシンボルに「見立て」るわけですが。やっていることはちょっと違うけれど、同じ「見立て」という言葉を使っているのが興味深い。

東畑 面白いのは、カウンセリングの初回ってその人のことがめちゃくちゃわかるんですよ。四〇分ぐらい話を聞くと、大体こんな感じかな、とわかる。だけどカウンセリングの回数を重ねると、どんどんわからなくなっていっちゃう。初回は大雑把な話をするからわかるんだけど、細部に入っていくと相手がどんどん謎めいて見えてくるんですね。そして、心の本当のところというのは細部にあるんです。それでも最初に区画整理が行われ、大まかな見通しが立つことは極めて重要です。

  今の話で思い出したのが、「オリエンテーション」。新しい学校や会社に入ったとき、最初にオリエンテーションが行われます。これも縮約ですね。大学や会社での営みや組織の力学なんて、複雑で、にわかにはわからない。そこで「オリエンテーション」といって組織図を見せられたり、カリキュラムを示されたりしてわかった気になる。
 でね、これを「オリエンテーション」と言うことが、僕からするともう占星術的なんです。オリエンテーションって「東を決める」ってことでしょう?

東畑 なるほど、オリエント。なんで東なんでしょう?

  そこが重要! 東は日が昇る方角だからです。東がわかれば西南北が全部定まるじゃないですか。だからオリエンテーションを行うことは、その会社や学校に対する自分のホロスコープを作ることなんですよね。「ホロスコープ」とは元来、(東の)地平線を見る、という意味でもありました。

東畑 ああ、しかも、「東に行こう」ということではなく「東が決まれば方向感覚が出てくるよね」というのが大事ですね。西に行くために、東がわからないといけない。たしかにマッピングですね。
 そういう意味では、ジョルジュ・ミノワの『未来の歴史』はタイトルがうまいですよね。前の方向についての歴史という。僕らは常にどっちが前かを考え続けている。
 カウンセリングも同じだと思います。カウンセリングの初回で大切なのは、どちらの方向かわからなくなっている状態の中で前を示すことなんです。そのために、まずは東がわからないといけない。

  五里霧中では互いに怖い。だから「方向付ける」「位置を示す」。
 人間は空間をメタファーにして人生の時間を考えるものなんですね。「前に進もう」とか「後ろを向いていても仕方ない」「人生上向きだねえ」なんて普通に言う。未来なんて本当は上でも下でも前でも後ろでもないのに、なぜか「前」と考えてしまう。肉体にインストールされた空間と時間の感覚が、人生や世界に投影されている。

東畑 それは逆でもあるわけですよね。鳥がどこから飛んできたかは偶然なんだけど、これを比喩として捉え、なんらかの指針として受け取る。そうすることで、人生に「東」ができてくる。こうやって何重にも比喩を重ねながら、自分の物語を紡いでいく。

  比喩と現実の人生を行ったり来たりしながら進んでいくんですね。

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続きは好評発売中の 書籍にてお楽しみください。

1980円(税込)/集英社
1980円(税込)/集英社

●心理学と占いに共通するもの
●昼間の星を見ようとすること
●人生には占いの時間も流れている
●占いの分類と夢を見ることの意味
●弱い宿命論と勇気の占星術
●象徴に対する信頼
●救世主か、詐欺師か? ……など

古代の肝臓占いから占星術、ユングや夢分析について縦横無尽に語りつくす!

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新刊紹介

東畑開人

臨床心理士・公認心理師。白金高輪カウンセリングルーム主宰。『野の医者は笑う 心の治療とは何か?』(文春文庫)、『心はどこへ消えた?』(文春文庫)、『雨の日の心理学 こころのケアがはじまったら』(KADOKAWA)など著書多数。『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』(医学書院)は第19回大佛次郎論壇賞を、『カウンセリングとは何か 変化するということ』 (講談社現代新書)は新書大賞2026を受賞。

鏡リュウジ

占星術研究家・翻訳家。京都文教大学客員教授。著書に『占いはなぜ当たるのですか』(説話社)、『タロットの秘密』(講談社現代新書)、『タロットの美術史』(創元社)、『占星術の文化誌』、『鏡リュウジの占星術の教科書 I ~Ⅵ』(ともに原書房)、訳書に『魂のコード』(朝日新聞出版)、監訳に『世界史と西洋占星術』(柏書房)、『タロットと占術カードの世界』(原書房)など。占星術研究の第一人者として幅広く活動中。

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