2025.6.26
エンパシーがAIにないのはどうしてか。その理由は身体を通した「経験」の有無にあるんじゃないか――【ブレイディみかこさん×西加奈子さん『SISTER“FOOT”EMPATHY』発売記念対談/後編】
経験ベースのエモーションを排除せずに繋がっていく
ブレイディ 今回の本は、まず間口を広げなきゃいけないと思っていて、そのために連載当時から専門用語を使わず、なるべくわかりやすい言葉や事例に置き換えるように書きました。でも逆に、フェミニズムの先端を走っている方々にも、これを読んではじまりの頃の、ごろっとした原初的な感覚を思い出していただけたらいいなと思っています。自分はどういう気持ちでフェミニズムに興味を持ったのか。そういうのって、情的なものとか、それこそ経験からはじまっていることも多いと思うんですよね。
たとえば私だったら福岡の出身で、父親がずっと男の子をほしがっていたから、「お前が男だったら」とずっと言われていた。だから学業でもなんでも男性に絶対負けたくないっていう思いがあった。子ども時代の写真を見ているとトムボーイっぽい格好をしているんだけど、これは別に自分が好きでやっていたわけではなかったんですよね。フェミニズムと出会って、そのことに気付いたりして。
フェミニズムにすごく関心を持っている人たちも、はじまりにはそういったなにかがあるのではないでしょうか。そういう個別の経験やそれにまつわるエモーションの部分は、やっぱり排除して数値化しちゃ駄目なんだと思う。
西 ほんまにそう思います。そして、それが多様であることも大事。もちろん多様性って美しいことばかりではないけど、それでも。
本でも、中絶反対派の移民の女性について書かれていましたね(「これからのシスターフッドが生まれる場所」)。それって左派からしたら、まとまりにくくなって都合悪いじゃないですか。でもブレイディさんはそれを書くし、私たちも知る必要がある。
いろんな人がいろんなところにいて、だけどなんとなく実は同じ神輿を担いでいた。それくらいがいいんじゃないかと、今は思っています。「そんなのぬるい」って人もいると思うんですけど、そういう人はもちろん先頭を走ってくれたらいい。そこも多様であるべきだと思います。
『SISTER“FOOT”EMPATHY』は読む人によっていろんな感想があると思います。私は自分の気持ちにむちゃくちゃ寄り添ってくれて、「人間弱くてええで」と横で言ってくれているみたいで、本当に勇気が出ました。
ブレイディ ありがとうございます。久しぶりにお話しできてよかった。そういえば、西さんの東京新聞の連載『きずもの』も読ませていただきました。主人公が男性作家で、その目線でいろんな女性について書かれているのが面白くて、昭和の時代によくあった男性作家のちょっと露悪的な私小説を、現代に西さんが書いているような感じ。タイトルもタイトルだし、これからどうなるんだろうってすごく気になる。始まったばかりみたいですけど、早く書籍化されないかなってもう思ってます。
西 うれしい。『きずもの』の挿絵が、『SISTER“FOOT”EMPATHY』の装画・挿画を描いている佐伯ゆう子さんなんですよね。
先日佐伯さんとメールでやり取りをしていて、「今度ブレイディさんと対談すんねん」と伝えたら、メッセージをくれました。「毎月イギリスにいるブレイディさんからのエッセイがアツくて、日本に閉じこもってる私がすっかりフェミニストですと胸を張って言えるように育ちました。シスターフッド精神最高です、影響を受けて勇気をいただいてます」って
ブレイディ なんと! 有難い……。
西 もう本当に、ブレイディさんはいろんな人のことを肯定してますよ。いや、「肯定する」だと女神みたいになってしまうかな。パンクな姉さんが「大丈夫大丈夫! 閉じこもってても全然ええから!」みたいな(笑)。この本からもそれが伝わってきて、私はすごく好きです。
完(前編はこちらから)
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1,760円(税込)/集英社
●アイスランド発「ウィメンズ・ストライキ」の“共謀”に学ぼう
●シスターフッドのドレスコードはむしろ「差異万歳!」
●完璧じゃないわたしたちでいい
●シスター「フット」な女子サッカーの歴史
●オンライン・ミソジニーをボイコットするときが来た
●歴史から女性たちを消させない
●バービー、シンディ、そしてリカ
●焼き芋とドーナツ。食べ物から考える女性の労働環境
●街の書店から女性の歴史と未来を変える
●古い定説を覆すママアスリートの存在
……etc
雑誌『SPUR』での連載3年分に、新たに加筆修正を加えたエッセイ39編を収録。
わたしたちがもっと自由になるための、新時代シスターフッド論!
書籍の詳細はこちらから
新刊紹介
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昼間のスターゲイザー 占いと心理学の対話
2026/5/11
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教養としてのカレー
2026/6/5
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2026/3/25
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海をわたる言葉 翻訳家ふたりの往復書簡
2026/4/6
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