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【加藤直人×榛見あきる 創作会議】起業家と小説家が本気でメタバースSFを考えてみた

創作会議Part3〈実作編〉

 創作会議で生まれたアイデアをもとに、榛見さんに「メタバースの食事」をテーマにした作品の梗概を書いていただきました。また、「メタバースのペット」については、今後「小説すばる」にて作品を掲載予定。乞うご期待!

『 Virtual Ramen Discovery 』

 メタバース上の情報身体職人アバターメイカーとして生計をたてているフジは、ラーメンのアバターを作ってくれというメッセージを受け取る。
「学生時代に仲間たちと食べて優勝したあのラーメンが忘れられない。だから、自分がメタバース上でだけでもラーメンになって、あの頃のような気持ちをみんなに思い出して欲しい(笑)」
 フジがいつも作っているアバターは車や街灯などの非生物で、その精巧さに一定の評価を得ていたが、ラーメンという依頼は初めてだった。
 しかも、依頼人ピースが語るラーメンとは、今や材料費の高騰と多額の課税により超高級品となってしまった“ゴロー系ラーメン”だ。

 省エネルギーと地球環境の保護が人類の課題となって久しい今世紀。人類は輸送のコストを減らすべく、3Dプリンターによる印刷で家具から食事まで“地産地消”をモットーとしていたし、自宅に居ながらデジタル空間上で身体を伴うコミュニケーションが可能なメタバースが普及した。
 その一方で、新たに生まれた人類共通の敵の名は『過剰』だった。旧世紀で喫煙に対して多大な課税がなされたように、今や『過剰』なカロリーに対しても課税がなされる。
 その結果、3Dプリンターから出力されるデザインされた倫理食エチック・フードと比較して超高級品となったのが、ケーキやピザそしてラーメン―特に、その盛りの過剰さを誇るような“ゴロー系ラーメン”なのだ。

 フジはこの依頼を引き受ける。ピースに強く共感していたからだ。
 この依頼人は、地球環境という抗えない物理世界から、なんとか抜け出そうとしているのだ。
 それは、形こそ違えどフジと同じだった。
 フジの物理肉体は美しい女だったが、精神までそうではなかった。だから、性を取り外す試行として、車や街灯などの非生物のアバターを精巧に作り続ける。その一環として、ラーメンのアバター作成を請け負うことに違和感はなくなっていた。
 だが、アバター作りは難航した。高解像度のテクスチャとハイポリゴンのゴロー系ラーメンをモデリングするも、ピースを納得させるようなモデルはできない。
 そんなおり、ダイラクという倫理食デザイナーから注意勧告を受ける。
「非倫理的な食事を肯定する姿はいかがなものか。倫理規約違反の疑いにより治安委員会へ通報する」
 フジとピースは、ゴロー系ラーメンの情報は、過剰な摂食を促すものではないと証明せねばならなくなった。
 そこでピースが提案したのは、「ダイラクが作る物理的な倫理食のデザインラーメンに、メタバース上でゴロー系ラーメンの3Dモデルを重ねて食事し、デザインラーメンの摂食量がどう変わるかによって判断をしよう」ということだ。
 ダイラクはこの検証を承諾した。

 そして検証の日。繁華なワールドで街頭調査を行った。
 ラーメン屋の屋台が出現し、ワールド上で“ゴロー系ラーメン”のモデルを提供する。それを注文すると物理世界では倫理食のデザインラーメンがプリントされる仕組みだ。特異なイベントに興味を惹かれ、調査対象者は十分に集まった。
 けれど、ピースのアバターにも流用されるはずのラーメンモデルにフジたちは満足できずにいた。どんなに精巧に現実のゴロー系ラーメンを再現してもだ。ピースが満足するモデルでなければ検証の意味などないのに。
 そんな折、街頭調査に参加していたピースの学生時代の友人が、フジたちに言う。
「あなた、ずいぶん綺麗なゴロー系ラーメンを作るんだね。ゴロー系ラーメンがこんなに高い解像度で見えたことはなかった」
 人間にとって、情報とは必ずしも高解像度高品質であればいいというモノではないのかもしれない。そう察したフジは試しに、あえてテクスチャの解像度を下げ、ポリゴン数を減らしたモデルをピースたちにふるまう。
 そして検証の結果、ゴロー系ラーメンの3Dモデルをデザインラーメンに組み合わせたことに対して、「摂食量」に有意な差は見られなかった。
 逆に、有意な差が認められたのは「おいしさ」と、「満足感」だった。
 その結果にダイラクは倫理委員会への通報を取り下げ、ピースがゴロー系ラーメンのアバターを使うことを認める。
 ピースも、そのアバターの出来に満足し、喜び勇んでパブリックワールドでラーメンになった。「さあ、みんなで優勝しようぜ!」
 フジはゴーグルの隙間から頰へ液体が伝うのを感じ、唇にふれたそれを舐めるとほのかな塩気とゴロー系ラーメンの風味を感じた気がして微笑んだ。

(※この梗概を更に長い実作にしたものは、小説すばる2022年5月号に掲載されています)

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榛見あきる

はるみ・あきる
1992年生まれ。ゲンロンS F講座第四期受講生、第五期聴講生。第四回「ゲンロンS F新人賞」受賞。著作に『虹霓のかたがわ』がある。

Twitter@akiru_harumi

加藤直人

かとう・なおと
1988年大阪府生まれ。京都大学理学部にて宇宙論と量子物性論を研究。京都大学大学院理学研究科修士課程中退後、スマホゲームを開発しながら約3年間のひきこもり生活を過ごす。2015年にスタートアップ「クラスター」を起業。2017年、数千人規模のイベントを開催することのできるVRプラットフォーム「cluster」を公開。『ForbesJAPAN』の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出。

Twitter@c_c_kato

(写真:長谷川健太郎)

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