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【加藤直人×榛見あきる 創作会議】起業家と小説家が本気でメタバースSFを考えてみた

創作会議Part2〈ペット〉

榛見 次にお伺いしたいのはメタバースの「ペット」です。メタバースで想定されているのは今のところ人間だと思うんですが、そこに人間以外のものを持ち込むとしたらどうなるか。

加藤 ペットは流行ると思います。既存のオンラインゲームでもペットシステムってあるんですよ。
 そのペットは、一応着飾ったりとかできるんですけど、基本は何もしなくてついてくるだけ。でも可愛い(笑)。
 だからメタバースでも流行るだろうなくらいには思ってましたが、実際はどうなるか。
 もしペットの動きだけ持ち込むんだとしたらトラッキングだけでいい。バーチャル上の自分のペットを表示して、物理世界から動きをトレースする。これは即できることなんですね。ただどこまで存在を持ち込みたいかっていう話で、意識までとなるとプロセスや技術が確立されていない。でも自分のペットも連れ込みたい人は本当に出そうですね。

榛見 ペットも家族であるっていうのが一般的な考え方ではありますが、そこには哺乳類にせよ爬虫類にせよ魚類にせよ自律的な意識があるから、っていうのが大きい気がします。トラッキングの向こうにメタバースを認識した彼らの意識が欲しい、みたいな。

加藤 動物にも目などの感覚器官はちゃんと存在している、ということはハックは機能しうる。実際、牛にVRゴーグルをかぶせて牧草地を見せることによって母乳の出る効率が上がったみたいなニュースはあったんですよ。でもまだちゃんとした研究にまではなっていない。

榛見 では物理世界とは別に、僕が一つ問題になるかなと思ったのが電子的なペットをいつまで育てるか。古いですけどたまごっちとかは、死が組み込まれているから、育てるのを止めることができる。でも家族として電子的なペットを実装することを考えたときに、わざわざ寿命を組み込むのだろうか、とは思いました。

加藤 前提として情報のペットへ意識を持たせるかどうかっていうのが一つありますね。ゲームのようにただついてくるだけの単純なアルゴリズムだとしたら、アルゴリズムだと認識しているがゆえに雑に扱えますよね。ついてくるのが煩わしく思ったらシステムでオフにすればいいだけなので。
 そうじゃなくて、ペットに意識が生まれるみたいなことをやり始める人が出てきたときですよね。

榛見 そうですね。料理のときに、アルゴリズムが意識の全てという立場もあるとお話しいただいたと思うんですが、そこに立脚すれば、やはりペットに意識を持たせることは原理的には可能かと思うんですよ。

加藤 意識を持たせ始めたら問題になりそう。育て続ける以前に、その意識を持ったペットが禁止される可能性とかもありますよね。禁止になった後で、でも意識持ってる方がいいとなってアンダーグラウンドで流行る、みたいな。普通のユーザーからは「お前のペット意識持ってるじゃん、旧型じゃん」みたいなことを言われたりする。これはだいぶ先のメタバースの世界かもしれないですね。そして、意識がありそうだということは、アンドロイドに人権はあるのかという問題にも等しい部分がある。

榛見 アンドロイドよりは先にきそうではありますよね。

加藤 まさにそうですよね。例えばですけれど、子供がすごい可愛がっていたアルゴリズムのペットがいて、それを親が罰のために消したりとか。

榛見 アルゴリズムのペットに対する世代間の認識の違いとかは生まれそう。

加藤 あとはアバターをすごいひどい形に使うとか。犬だったら犬の顔がぐちゃぐちゃに捻られるとか。そういうウィルスとか流行りそう、とは思いますね。あと、どこまでペットにするかみたいな話も出てくる可能性ありますよね、人間型にし始めるとか。

榛見 あー……。

加藤 ペットの見た目を水着姿の女性にして……みたいなことやり始める人がいそうですよね。
 自分でそんな設定をしなくても、相手のアバターをいじるとか。難しいけれど、できなくはないはずなんですよ。
 アバター自体を性的・暴力的な表現に使うのも起こってしまうと思ってて、すごいポルノな感じの動作を自動でとらせるとか。

榛見 ポルノって線引きが難しい部分ではありますよね。個人が“性的”と感じる感じないのラインってかなりまちまちじゃないですか。

加藤 完全に人間の形をしてなくても、ちょっと人間ぽい体をした動物のペットとか。ケモ耳の生えたアバターがやらしい格好させられたりしてて、周りの人がそれを見てすごい嫌な気持ちになるとかはありそう。
 あるいは、片思いの相手に似せたペットとか。

榛見 実在のモチーフがあると暗黙のルール的なもので敬遠はされそうですね。はたまたエリア分け―このエリアでは禁じるけど、あっちのエリアでは無法地帯になるとか。

加藤 エリアに分かれるのか、どうなるか未知数な部分はありますが、本当にペットを実装するとなったときそこまで話が広がりそうではありますね。

榛見 世界観がすごい広がりますね。メタバースのペットは、実装されたら面白いだろうなっていうのがあったんですが、じゃあ具体的にどうお話にしようかなというところは難しいなと考えていました。

加藤 何が一番ストーリー性があるか、みたいなところですね。一つあるのは、マイノリティメタバースプラットフォームがサービス終了しちゃったら、そこで飼ってたペットが持ち運びできない感じになっちゃう。新しいところに行って作ったら高性能に動きすぎてるがゆえに、名状しがたいような違和感を覚える。私のこの犬はもっとカクカク動いていたんだけど……呼びかけてもこっち向いたりしないみたいな、アルゴリズムの差みたいなね。

榛見 アイデンティティの喪失だ……形状か、アルゴリズムか、最低でもどちらかには同一性を感じられないと愛着は取り戻せないかもしれませんね。

〈メタバースのペット①〉
・ペットに意識や寿命は必要か否か
・動物も視覚などをハックすることは可能
・人型のペットなど、性的な部分での定義が必要かもしれない

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新刊紹介

榛見あきる

はるみ・あきる
1992年生まれ。ゲンロンS F講座第四期受講生、第五期聴講生。第四回「ゲンロンS F新人賞」受賞。著作に『虹霓のかたがわ』がある。

Twitter@akiru_harumi

加藤直人

かとう・なおと
1988年大阪府生まれ。京都大学理学部にて宇宙論と量子物性論を研究。京都大学大学院理学研究科修士課程中退後、スマホゲームを開発しながら約3年間のひきこもり生活を過ごす。2015年にスタートアップ「クラスター」を起業。2017年、数千人規模のイベントを開催することのできるVRプラットフォーム「cluster」を公開。『ForbesJAPAN』の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出。

Twitter@c_c_kato

(写真:長谷川健太郎)

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