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【加藤直人×榛見あきる 創作会議】起業家と小説家が本気でメタバースSFを考えてみた

物理世界の別次元(メタ)

榛見 利便性でいえば、SF的な文脈で食事を考えたときに栄養やエネルギーを体に取り込む行為と、食事という味覚を楽しむ行為を分けることはできるんじゃないか、という話は結構ありますね。生活・生命の維持に必要な栄養やエネルギーというのは食事以外のところから得る。そうすると、実際に口や胃の中にものを入れなくても、単純に味覚だけをハックする行為を食事と定義することも可能なんじゃないかなと思います。

加藤 そうなるはずですよね。そのときはおそらく心理学も絡んでくる。料理の科学の定説だと、成分よりもシチュエーションだったりとか、人間の脳の認知がもたらすことの方がおいしさに寄与するらしいんですね。
 人間は情報を食べているんですよ。だから高いコース料理よりも好きな人と食べる安い料理の方がおいしいみたいな。

榛見 脳の認識に現実が引っ張られるようなイメージですね。

加藤 むしろ、脳で生み出されたものが本来で、それが物理法則に規定されたこの世界に映されている。空想は自由自在だし、規定されない。言うなれば脳こそ現存するメタバースだと思っているんですが、そこには肉体という物理法則の制限がかかっている。高性能なBMIであったとしてもその制限はある。
 栄養補給という行為は物理法則の世界の出来事になるので、本来メタバースには不要なんですね。

榛見 では、そもそも食事という行為自体もメタバースで必要か? という議論もありえますか。

加藤 ありえますね。その例として、「アップロード」っていう海外ドラマを挙げてみようと思います。そこでは死ぬ前に脳の意識をインターネット上にアップロードして意識だけで死後の世界を生き続けている。その世界の中で食事も実装されていて、主人公が言うんですよ「なんでバーチャルなのに腹が減るんだ!」って。

榛見 たしかに、そう思うかもしれない(笑)。

加藤 実は最初の頃は食事が実装されていなかった。すると、精神を病むユーザーがたくさん出てきて、食事というシステムを導入したらそれが安定したらしいんですね。
 これはあくまでフィクションで、本当に料理という楽しみをなくすとどうなるかという、ちゃんとした研究はないと思うんですけれど。

榛見 娯楽としてハックする以前に、精神安定装置みたいな役割が食事にはあるという感じでしょうか。

加藤 そうです。意識というものがどこから生まれてるかっていったときに、脳神経科学者の間でも二つの立場がある。
 一つは、重要なのは脳のニューロンの繫がり方で、アルゴリズムが意識の全てという立場。
 もう一つは、脳の物理的な現象が重要で、頭蓋内の量子交換や分子の状態も含めて重要なんじゃないかという立場。
 僕の考えとしては、もし完璧なアルゴリズムから意識が生まれているなら、料理を食べないと生きていけないみたいな実感は生まれそうにないとは思います。
 そちらよりは、物質的要因によって意識が生まれているという考えに近い。食事というものは人間性を維持するために、DNAレベルで仕組まれているんじゃないかみたいなことは、考えますね……。
 とはいえ、娯楽や精神安定装置としての食事と、栄養補給とは別にされるべきというのはまさにその通りです。どんどん分離されていくはずなんですよね。メタバースでは、現実世界とか物質に規定されてしまったやらざるをえないことから解き放たれる。

〈メタバースの食事②〉
・栄養摂取と楽しむ行為は分けられる
・食事は精神安定装置の側面もある

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新刊紹介

榛見あきる

はるみ・あきる
1992年生まれ。ゲンロンS F講座第四期受講生、第五期聴講生。第四回「ゲンロンS F新人賞」受賞。著作に『虹霓のかたがわ』がある。

Twitter@akiru_harumi

加藤直人

かとう・なおと
1988年大阪府生まれ。京都大学理学部にて宇宙論と量子物性論を研究。京都大学大学院理学研究科修士課程中退後、スマホゲームを開発しながら約3年間のひきこもり生活を過ごす。2015年にスタートアップ「クラスター」を起業。2017年、数千人規模のイベントを開催することのできるVRプラットフォーム「cluster」を公開。『ForbesJAPAN』の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出。

Twitter@c_c_kato

(写真:長谷川健太郎)

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