2025.5.2
博物館ほど知的好奇心を満足させてくれる機関はない。本書はその道しるべとなる──国立科学博物館副館長・栗原祐司さんが読む「推し博物館ひとり旅」
今回は、本書にも登場する「国立科学博物館」の副館長であり、国内随一の「ミュージアム・フリーク」として知られる、栗原祐司さんによる書評をお届けします。

ひとり旅のお供に、この一冊!
まずは、新しい「博物館マンガ」の登場に、ウェルカム!
かくいう私も、既に国内6,000館近く博物館を訪問している「ミュージム・フリーク」で、久世番子先生と『博物館ななめ歩き』(文藝春秋)や、グレゴリ青山先生と『京博深掘りさんぽ』(小学館)という「博物館マンガ」を出版していただいていますが、本書の特徴は、「ひとり旅」をキーワードに、読者も行ってみたい気持ちにさせる魅力的な内容になっていることでしょう。
私も学生の頃は、電車やバスを乗り継いで、旅を楽しみながら博物館を訪問したものですが、車の免許を取得してからは、効率性を重視して車で回ることが多くなっています。その方が限られた時間で一つでも多くの博物館を見学することができるからですが、その結果、見知らぬ駅や電車での人とのふれあいなど、いわゆる旅情が失われてしまっていることは間違いないでしょう。本書では、旅費や、夜行バス・寝台特急などの移動手段についてもご丁寧にアドバイスしてくれるなどお役立ち情報が満載で、よき旅のお供となるに違いないと思います。

博物館を目的として旅行する場合は、やはりひとり旅をおすすめしたい。なぜなら、自分のペースで見学し、必要に応じて臨機応変にスケジュールを調整することができるからです。事前に調べて訪問したにもかかわらず休館だったり、現地で思わずチェックしていなかった博物館や名所旧跡を見つけたり、ちょっと見学するつもりだったのが、1時間以上つかまってしまったり、迷ってしまって開館時間に間に合わなかったり…、おそらく明さんも、マンガには描いていないけれどもそんな経験をたくさんしていることでしょう。それもまた旅の醍醐味で、よい思い出になるのですが、同伴者がいると、本当はもっとじっくり見たいのに、近くの史跡も見たいのに、ちょっと寄り道したいのに、同伴者に気をつかってしまい、スルーして、後で後悔することになるのです。例えば、私が家内と一緒に明さんの出身地である沖縄に行ったときには、ビーチなどには目もくれず史跡ばかり見て回り、「何しに来たのよ!」と叱られてしまいました。自分の「推し」を追求するには、やはり気兼ねなくまわれるひとり旅がいい。
博物館は創造力の源となる
それにしても、本書を読んでいると、明さんの博物館に対する率直な喜怒哀楽が伝わってきて、うれしくなります。実は、私は仕事柄、世界中の博物館で多くの貴重な文化財や美術品、標本等を見る機会が多いため(自慢しているわけではないのですが)、感動の沸点が高くなってしまっています。そのため、ちょっとやそっとでは「感動した!」とはならないのです。インターネットの普及によって情報過多社会になってしまっているのが、それに輪をかけています。したがって、事前情報なしに見学し、「え、なんで、これがここに!」という意外性のほうが感動することが多いように思います。そう考えると、あまり事前に調べない方がよいのかもしれませんが、今度はそれで見逃してしまうものも出てくるので、そのあたりの兼ね合いが難しいところです。
なぜ人は博物館へ行くのか。それは、博物館が上は天文、下は地理、森羅万象のありとあらゆるものを扱っているからです。それは、図書館も同じですが、博物館は実物を見ることができ、そこから様々な想像が喚起され、創造力の源となります。博物館ほど知的好奇心を満足させてくれる機関は、ほかにはありません。本書は、その道しるべとしての役割を果たしてくれているように思います。
正直に申し上げれば、本書で紹介している博物館はすべて訪問したことがあるのですが、明さんの画力の効果で、いくつかもう一度行きたくなりました。ぜひ多くの方に本書を手にとってもらい、博物館へのひとり旅を楽しんでもらいたいと思います。ひょっとしたら、そこにめったに感動はしないけれども、小難しい顔をして展示品を眺めている私がいるかもしれません。

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大人のひとり旅の目的に「博物館」はいかが?
「漫画家しながらツアーナースしています。」シリーズの著者・明さんが、全国24の大好きな博物館=「推し博物館」を旅するコミックエッセイ。
博物館の見どころはもちろん、女性のひとり旅にうれしい「旅費」「持ち物」「食事」「夜行バスや寝台特急など移動手段」などの情報コラムも充実!
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