2021.7.27
この子は大人になる前に死ぬから
お姉さんは、プールの中にいたこともあります。
水泳の授業中、平泳ぎしながら目にした水底に、お姉さんが仰向けになっていたのです。
「こっち、こっち」
水中なのに声が聞こえる。にっこり笑いながら、自分に手招きしている。
次に気がつくと、プールサイドで先生に体を揺さぶられていました。いつのまにか水底に沈んで気絶していたそうです。
そんなことが、何度も、何度もありました。
だけど私は死ななかった。
いや、一度は死んだのです。正確に言えば、「死んだことにされた」。
名付け親のお坊さんは、ただ「あきらめなさい」と突き放しただけではありませんでした。私が七歳の時、とある対策を講じてくれたのです。
それは葬式をあげること。一度亡くなったという形で、「噓の葬儀」を執り行ったのです。私を連れ去ろうとするモノたちを、勘違いさせるために。
以降、あのお姉さんがあらわれることはなくなりました。
そのおかげです。
五十歳を過ぎた私が、こうして、あなたに思い出話を語れるのは、そのおかげなんです。
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7月4日 設置されては撤去されるブランコの秘密
7月6日 クラスメイトの机に置かれた手紙
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7月27日 この子は大人になる前に死ぬから
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