2021.7.6
クラスメイトの机に置かれた手紙
担任の話では、親戚に不幸があったため葬式に出ているのだという。
それから三日ほどタクヤは欠席を続けた。その間、手紙をどう処理したらいいものか、僕はすっかり困ってしまっていた。
ようやく登校してきたタクヤは、明らかにやつれきっていた。身内の死がよほどこたえたのだろうか。
迷いはしたが、早く踏ん切りをつけたかった僕は、ラブレターの件を伝えることにした。
恋愛話でからかえば、少しはタクヤの気もまぎれるんじゃないか。
バカな僕は、そう勘違いしてしまったのだ。
放課後、タクヤを学校裏の路地に誘い出し、あの封筒を手渡した。中身を見てしまったことも、正直に伝えた。
タクヤは声も出せないほど驚いた様子だった。
じっと僕を見つめた後、ようやく震える手で封筒を受けとった。
「……これ、お前が開けたんじゃないのか」
それだけは違う、信じてくれ、と僕は必死で弁解した。
タクヤも納得したようで、便箋を取り出し、さっと目を通した。
そこで、予想もしなかった事態が起きた。タクヤは、いきなり泣きだしたのだ。
嗚咽しながら路上にうずくまる彼を見て、僕は自分が大きなミスをしたと気づいた。
「ごめん、ごめん、悪かった、ごめん」
とにかく謝り続けているうちに、ようやく落ち着いたタクヤが、事情を説明してくれた。
先日亡くなったのは、タクヤの従妹の女の子だったという。
昔から重い病気を患っていたので、周囲も覚悟していた死ではあった。
しかし彼女は、従兄であるタクヤに、好意を寄せているような言動を繰り返していた。どこまで本気だったのかどうか。病床で心が不安定になっていただけかもしれない。
「でも当然、そんなの拒否するしかないよな。この手紙だって……」
──確かにこれは、二週間前に彼女からもらったものだ。でも面倒なことになるのが嫌で、封すら開けていなかった。読んだのも今が初めてだ。ずっと部屋の机にしまっていたはずなんだ。なのになんでお前が……。
あの手紙はラブレターではなく、遺書だった。
一時間ほど経った頃、僕らは二人で、近くの海岸に行った。
そこで封筒ごとビリビリに破き、紙片を海に流した。
それが正しい行為だったかどうかは、今でもわからない。
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