2021.7.4
設置されては撤去されるブランコの秘密
僕は高校の自由研究で、地元の歴史を調べたことがありました。町の老人たちに戦時中の話を聞いて回るというものでしたが、そこで偶然、あの公園の由来を知ったのです。
公園があった土地は、戦後まで手つかずの荒地でした。
そこには一本だけニレの大木がはえていました。
「首吊りの木」と呼ばれていたそうです。
名前の由来は、その木で首吊りをする人が多かったから。いわゆる自殺の名所というやつです。そんな木でしたから、怪談めいた噂も生まれました。
ここで首を吊ったものは、成仏できず、ずっと木の下にとどまることになる。
自由になるためには、誰か別の人が、また新しく首を吊らなくてはいけない。木の根元では、自殺者の霊が、身代わりになる人間を狙い続けている。
だからニレの木のそばを通る人たち、そこで遊ぶ子どもたちは、不思議と首を吊りたくなってしまう。そして縄に首をかけたとたん、死者がその足をつかんで下からひっぱるのだ……。
「変に自殺が続いていたのを、そうやって無理やり理由づけしたんでしょうな」
話をしてくれた老人は、そう笑っていました。
また「本当かどうかは知らないけど……」と言いつつ、意外なことも教えてくれました。例のお婆さんの弟さんもまた、そこで自殺したのだそうです。
もちろん、ただの昔話に過ぎないのでしょう。ただ、戦後に荒地が整備されて公園となり、ちょうど首吊りの木の場所にブランコが設置されたのは事実みたいです。
もしかしたら、と僕は思いました。
あの場所にはまだ、首吊りで死んだ、お婆さんの弟がいるのではないか?
ブランコをこぐ様子は、首を吊った人間が空中で揺れているようでもあります。それを見たお婆さんの弟が、子どもたちの足をひっぱっているのではないでしょうか。
結局、僕が大人になるまでに二度ほど、そのブランコは撤去と再設置を繰り返しました。
とはいえここ数年は撤去されたままで、復活する様子もありません。お婆さんももう高齢ですから、影響力が落ちているのでしょう。ただ聞いたところによれば、
「ちょっと子どもが落ちるくらい、いいじゃないのよ!」
お婆さんが役場でそう叫んでいたとも聞きました。まあ、それも定かではありませんが。
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7月4日 設置されては撤去されるブランコの秘密
7月6日 クラスメイトの机に置かれた手紙
7月9日 誰も来ないはずの男子トイレで目にしたもの
7月13日 息子に見えている母の顔
7月15日 内線電話から聞こえてくる声
7月19日 祖母に禁じられた遊び
7月22日 僕にだけ聞こえてくる音
7月27日 この子は大人になる前に死ぬから
7月30日 隙間から入り込もうとするもの