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ザ・スタークラブのHIKAGEとニューロティカのATUSHI。少しキャラの異なるふたりが歩む40年以上のパンク道【佐藤誠二朗『いつも心にパンクを。』試し読み 第一章その3】

パンクな〝あっちゃん〟はお菓子屋さん

2023年7月5日、ニューロティカのボーカル、ATSUSHI(通称あっちゃん)へのインタビューをおこなった。場所は東京・八王子の藤屋菓子店(以下、藤屋)店頭。親から引き継ぎ、彼が店主を務める老舗の菓子小売店だ。

「平日の午前中なら、どうせそんなにお客さんは来ないから」という本人の言葉で設定されたインタビューと撮影だったが、取材中にも何人かの客が来店。そのたびに取材は一時中断し、ATSUSHIは「はいどうぞー。いらっしゃいませ」と明るく対応した。

買い物に来たのではなく、近所の美容室の場所を尋ねてきた高齢女性には、小走りで店の前まで出て、指差しながら丁寧に道順を教えていた。するとその女性は、美容室の帰りにまた藤屋に立ち寄り、いくつかのお菓子を購入。ATSUSHIは「綺麗になりましたね」と褒め、店の棚に飾ってある古いペコちゃん人形に目をとめたその客と、2020年6月に『開運!なんでも鑑定団』に出演したときの話題でひとしきり盛り上がっていた。

ご近所の常連さんだという50代くらいの女性客が、お菓子を4点購入したときには、会計をしながら「この前はハガキ、ありがとうございました」とATSUSHIが礼を言う場面もあった。聞けば彼女は、たまたまBS放送でニューロティカの存在を知った新規ファン。昔からある近所のお菓子屋さんの、あの感じのいい主人が有名なバンドのボーカリストだと知って感激し、みずから『ニューロティカを紅白に出そう』運動を発起。私設応援団としてNHKに出演嘆願のハガキを送り、周囲にも呼びかけているという。

さらにこの日、服装や雰囲気からすぐにファンとわかる30〜40代の男女が来店した。話を聞くと、関東近県でキッチンカーを営むご夫婦で、年上の奥さんが昔からのニューロティカファン。それにつき合って若い旦那さんもCDを聴き、ライブへ行くうちに、今では奥さん以上に熱心なファンになってしまったのだとか。この日は我々の撮影のため、ATSUSHIは特別にライブのときと同じピエロメイク姿に変身してくれた。ふたりは藤屋の前で記念撮影をお願いし、〝ロティカのあっちゃん〟とのひとときを楽しんでいた。

バンドマンとして、菓子店店主として、近所の人気者として、そして誰にでも分け隔てなく接する〝人好き〟なあっちゃんとして─。そこに垣間見えたのは、ファンが絶えず彼のまわりに集まる理由、そしてニューロティカというバンドが解散もせず、40年以上もの長きにわたって走り続けてこられた理由でもあった。

(撮影/木村琢也)※書籍掲載写真より
(撮影/木村琢也)※書籍掲載写真より

インタビューでは、とにかくイケイケだった若きころの日々を楽しそうに語るATSUSHIも、2024年に還暦を迎えた。その前年には、少し大きな病を患ったという。

「糖尿病です。2023年の3月、いや2月だったかな。ライブで息苦しくなって、深呼吸してないと立っていられないぐらいになりました。Tシャツ1枚で外に出てハアハアやってたらメンバーが来て、『やばいから、すぐ病院に行けよ!』って言われました。でも、寝れば治ると思っちゃったんです。
藤屋もバンドも休み、店の2階で何日か寝ていたATSUSHI。体がきつく電話に出るのも面倒なので電源を切っていた。すると、メンバーが本気で心配をしはじめた。

「連絡が取れないから、死んでるんじゃないかって。八王子の同級生に連絡してくれて。その友達が家の裏から『おーい、あっちゃん! 大丈夫かー‼ 生きてるかー⁉』って、また大きな声で(笑)。そのまま病院に連れていかれて検査したら、とんでもない数値が出ちゃったんです。それから1か月半くらい禁酒して、なんとか良くなりましたけどね。お酒? 今はもう始めてます(笑)。前より控えているって感じでもないですねえ。だって、パンクですから(笑)」

ファンとしては、いつまでも元気でライブをやってほしいと願わずにはいられない。でも、こうしてどこまでも無邪気でヤンチャで、パンクなあっちゃんもまた、どうしようもなく魅力的なのだ。なかなか難しいところである。

ニューロティカは2025年4月16日、ATSUSHIの還暦を記念したライブDVD『還暦道化師』をリリース。5〜6月には「全力レッドゾーン!!!」と題した結成41周年全国ワンマンツアーを開催するなど、ますます元気に活動中である。

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1980年代に熱狂を生んだブームを牽引し、還暦をすぎた今もインディーズ活動を続けるアーティストから、ライブハウスやクラブ、メディアでシーンを支えた関係者まで、10代から約40年、パンクに大いなる影響を受けてきた、元「smart」編集長である著者が徹底取材。日本のパンク・インディーズ史と、なぜ彼らが今もステージに立ち続けることができるのかを問うカルチャー・ノンフィクション。
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佐藤誠二郎『いつも心にパンクを。』刊行特集一覧

【第一章試し読み その1】有頂天KERA、the原爆オナニーズTAYLOW……還暦すぎてもインディーズなふたりのパンク哲学とは?

【第一章試し読み その2】ラフィンノーズ・チャーミーの死生観。「『好きなことやって、俺、楽しかったから、オールOK』で死んでいきたい」

【第一章試し読み その3】ザ・スタークラブのHIKAGEとニューロティカのATUSHI。少しキャラ違いのふたりが歩む40年以上のパンク道

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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