2020.12.28
阿波高校(徳島)女子球児の最後の夏。「やっぱり野球が大好き。普通に女子高生しているより青春できていた」
今年8月、甲子園交流試合開催時に放送された朝日放送テレビ「2020高校野球 僕らの夏」。その番組取材班だから見つめることができた、球児たちの感動ドキュメントが『消えた甲子園 2020高校野球 僕らの夏』です。特別な夏、球児たちが刻んだ「僕らの証」とはいったんなんだったのか?
全8章にまとめられた単行本の中から3回にわたり内容を紹介する特集企画。第1回の「日本ハムドラフト4位、智弁和歌山・細川凌平選手と父との絆」に続く2回目は、【第7章:それぞれの甲子園】より、阿波高校(徳島)の女子選手・吉本りりかさんの物語を紹介します。小学時代には男子に混ざって徳島県選抜で4番を打っていたという実力の持ち主。本気の女子球児が最後の夏に経験したこととは?
※書籍から一部抜粋・再編集しています。
(構成/よみタイ編集部)
小学三年生のとき、兄の影響で野球を始めた吉本りりかは、六年生のときに女子ながら徳島県選抜の四番打者をつとめ、見事に全国制覇を成し遂げた。中学でも男子部員にまじって野球を続けた彼女は、高校に入学してから大きな決断をした。吉本が振り返る。
「中学校とは違って、体力とか体格差が出てきたので、ちょっと無理だなっていうのがあって、バスケ部に入ったんですけど、バスケしよっても自分もワクワクせんし、やっぱり自分にウソはつけないと思って野球部に入りました」
規定により、高校野球の公式戦に女子選手は出場できないが、仲間とともにここまで野球を続けてきた。
「背番号もなく、大会にも出る資格はないって言われて、その上で腹くくって入部したので、あとのことは考えんように野球しようって感じでした」
公式戦には出場できなくても、吉本はほかの部員と同じメニューをこなし、いまでは男子とも差がない選手に成長した。痛烈な打球も難なくさばく。彼女と一緒にやってきた三年生はこう言う。
「どんなに疲れていても自主練習で毎日走っていて、それを折れずにやり続けていることがすごい」(岡島辰磨主将)
「常に前向きで次のプレーを考えてやっている。〝本当に野球が好き〞じゃないとできない」(加藤誇生)
『僕らの夏』制作スタッフの今村圭介は番組をつくるにあたって、女子選手を探していた。
「硬式野球をしている女子も増えてきたので、取材させてもらったら、監督がいい方で、本人もとてもいい子で、すごくいいチームで」
それが徳島県立阿波高校、背番号のない女子選手・吉本りりかだった。
「お父さんが野球部OBでピッチャー、3歳上のお兄さんもエースだったんですが、三年生の最後の試合はサヨナラボークで負けてしまったそうです」