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阿波高校(徳島)女子球児の最後の夏。「やっぱり野球が大好き。普通に女子高生しているより青春できていた」

これまでの活動が評価されて始球式に

夏の甲子園の地方大会の代わりに行われる徳島県の独自大会。その始球式に、吉本が抜擢されることになった。鳴川監督が言う。

「本当に粋なはからいをしていただいたなという思いでした。『吉本の始球式が決まりました!』という連絡を受けて、『えーっ、ほんまに?』と大きな声をあげてしまいました。りりかが始球式をするということが妥当かどうかはわかりません。彼女の頑張りが認められたということで、お受けすることにしました。『こういう話があるけど、どうする?』と本人に聞いたら、『やります!』と即答でしたね」

そのとき、吉本の表情がいつも以上に輝いていたことは言うまでもない。

「ほかの女子選手、女子球児たちの思い。野球を続けさせてくれた家族への感謝。支えてくれたチームメイトに対する思い。甲子園がなくなって悔しい思いもあるけれども、一生懸命に最後の試合に向けて頑張っている徳島県の、全国の球児たちの思いをボールに乗せて、笑顔で投げてほしいですね」
 
7月12日、始球式当日。緊張した面持ちでマウンドに上がった吉本。力一杯に投げ込んだボールはキャッチャーミットに吸い込まれていった。本人は言う。

「『まわりの人たちを楽しませるんじゃ!』と思って投げました。そうしたら緊張もほぐれました」

そのボールをどうするのかと聞かれた吉本は「飾っておきます」と言う。「父さんがほしいって言っていたよ」と言われてひと言。

「あげん!」

取材をしていた今村が吉本の始球式を振り返る。

「僕が『緊張してる? 緊張してる?』って聞きすぎたんじゃないかとあとでスタッフに言われたんですけど、緊張していましたね。ブルペンで投球練習するときに、隣で強豪の鳴門渦潮のピッチャーが140キロくらいの速い球を投げていて。それで余計に緊張したんかな?(笑)」

三年生にとって最後となる夏の大会、徳島県の独自大会が始まった。吉本は選手としては出場できないため、球審にボールを渡したりファウルボールを拾ったりする補助員としてベンチ脇に控えることになっていた。吉本は言った。

「試合のときには補助員をするんで、そこでチームが勝つように緊張感を保つためにも、自分からフレンドリーに笑って、勝利に導きたいと思います」

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