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日本ハムドラフト4位、智弁和歌山・細川凌平選手と父との絆

息子から元気と勇気をもらう

凌平は両親への感謝をことあるごとに口にする。

「はじめは下宿していて、いまは寮に住ませてもらっているんですけど、洗濯、食事の用意などを自分で全部やらないといけなくなったときに、親のありがたみを感じました。お金は全部親が出してくれていますし、僕は野球をやらせてもらう立場です。だから、目標を立てて必ず叶えようと思って、高校入学前に手紙を書きました。感謝の思いと、夢に向かって頑張るよという気持ちを込めて」

野球を通じて一番喜ばせたいのが親だという。

「伝統ある仕事でしんどいと思うんですけど、頑張っている姿を子どものころから見ています。なかなか試合を見てもらうことはできませんが、それは野球を始めたときからわかっていたことなので、苦にはなりません。ずっと応援してくれていますし、味方として支えてくれたのが親なので」

だからこそ、凌平は野球で恩返しをしたいと考えている。

「もちろん、活躍するのが一番ですが、親は元気ではつらつとした姿を見るのがうれしいと思います。だから、元気に、笑顔で野球をやりたい」

例年は、桜のシーズンからゴールデンウイークが稼ぎ時だが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、父の仕事は大打撃を受けた。2カ月ほど収入のない時期が続いたときは、凌平の存在が家族の励みだったと佳介さんが言う。

「世間には同じように大変な人がいっぱいいるんで、個人でなんとか頑張らなしゃあない。センバツも中止になったときは言葉が見つからなくて、『しょうがない』とか『頑張れ』とか言えへんかったけど……凌平がずっと頑張っているんでね。なかなかどうにもならんけど、凌平のことを考えて、頑張らんと。家族はみんな、あいつから勇気と元気をもらっています」

当然、凌平は親の仕事の状況を理解している。

「ときどき、『大変やけど頑張って』みたいなLINEは来ますね。あんまり、子どもにお金の心配させるのもなんやから、こっちからは何も言うことはないけど、察してると思います。冗談で『プロに行ったら頼むわ』と言うと、笑っとるけどね」(※編集部注。10月26日のドラフト会議で北海道日本ハムファイターズから4位指名を受けた)

佳介さんは、キャプテンになってからのわが子の成長に目を細める。

「6月、半年以上ぶりに試合を見たときには、キャプテンという立場もあって、声のかけ方とか顔つきが変わったように思いました」
 
一度、目標を見失いかけたチームに朗報が届いた。6月10日、センバツ出場校による甲子園交流試合が行われることが決まったのだ。3月に出るはずだった甲子園に5カ月遅れで立つことになる。

「勝負やから、もちろん勝ちにはこだわってほしい。みんながしんどい思いをしてきたやろうから、3年間ともに頑張ってきた仲間と、最後に笑い合えるように、『凌平と野球できてよかったな』って思ってもらえるような形で終わってもらいたい。もちろん、プロを目指す上では大活躍してアピールしてほしいんやけど、チームのことが第一。高校野球としては、甲子園が最後かもしれんけど、凌平にとっては最後ではなくて、また次のステージにつながる場所であってほしい」

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