2020.12.19
『ギャル即是空』~「色即是空」とは何か? 平成生まれの僧侶が「ギャル」で説明してみた〜
最終章 ギャル即是空
このとき、ギャルの後ろに建つ「SHIBUYA109」はギャルの体からせられた光を反射し、瑠璃色に輝いていたという。
ギャルは続ける。
「つーか、ニットやギャルだけじゃないよ。この世のあらゆるものは、『状態』として存在しているだけで、固定的な『実体』としては存在してない。どんなものも必ず物質が集まって形をつくっていて、本体自体が不変なものは何一つ存在しないってこと〜」
目の前にいるのは、もはやあのときのメンディーなギャルではなかった。
「悟っているギャル」だ。
僕は悟っているギャルと話しているのだ。
「言うなら、人類はみんな『109』って感じ。『109』は中のテナントを入れ替えながら『109』としてあり続けてるっしょ? でも『109』それ自体が何かって聞かれたら、誰も答えられない」
万物は「SHIBUYA109」である。僕は今、ギャルから真理を学ぼうとしている。
「その『109』をこの世に存在する言葉で表現するなら『空』ってことだね。『空』というのは『何もない』と表現されるけど、正しく言えば『109』と一緒で『実体がない』ということ。あらゆるものが流動的に変化している『状態』としてあるだけで、ずっと仮の姿なんだよね。それが色即是空」
「『色即是空』……。クレヨンしんちゃんの掛け軸で見たことあります……」
無意識に、目の前の存在に敬意を払っている自分がいた。
「ギャルも、ドルガバも全部『空』なの。マジ『ギャル即是空』って感じ。ギャルは秒で、今も変化し続けてんだけど、それなのにお兄さんは固体的な『ギャル』がいると思ってる。でも、お兄さんが見ているのはギャルの残像なんだよね。誰にもギャルは止めらんないんだよ」
気がつけば、ギャルの身体から発せられる光は渋谷中を包み込んでいた。目も開けていられないほどの光量の中、僕は必死に目の前の存在を目に焼き付けようとしていた。
「あなたは一体何者……!?」
「まりぽよだよ〜」
ちがう。普通の人間ではない。何かしらの境地に、真理に達している。
光……悟り……マジ卍。もしや……。
頭の中で一つのイメージと結びついた。
かつて読んだ漫画『聖☆おにいさん』の、あのキャラが脳裏に浮かんだ。
「君……もしかして……ブッ…」
その言葉を発しようとした瞬間、雲をさすような光とともにギャルは姿を消した。
そのあと、どれだけ探しても「光を放っていたギャル」の存在を覚えている者はなかった。
幻だったのか、それとも何かのお告げだったのか。もはや、誰にもわからない。
今日も「SHIBUYA109」には、ドルガバの香水の匂いが絶えず香り続けている。
その場所に、世にも珍しい「金色ロン毛つけま仏像」が建立されるのは、今から109年後の話だった。
(終)
※当然ですが『ギャル即是空』はフィクションです。『弥蘭王問経』(『ミリンダ王の問い』)という仏典を参考に創作しました。気になる人がいれば調べてみてね。
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