2020.12.19
『ギャル即是空』~「色即是空」とは何か? 平成生まれの僧侶が「ギャル」で説明してみた〜
「おネエさんみたいなのがギャルじゃなかったら、この世のギャルがみんなギャルじゃなくなってしまうよ。ってか、そんなことどうでもいいからさ、そこでお茶……」
「お兄さんがウチをギャルと認識すればギャルかもしれないけど、『ウチ=ギャル』ってゆう実体は証明できてないからね。まあ、なんつーかあれだね、お兄さんまじメンディーだね」
総じて、面倒くさいギャルだった。
もしかして、本当は「清楚系」として見られたくて、「ギャル」を否定したいのだろうか。
メンディー(面倒くさいの意)なのはお前だろと言ってやりたい。
だが、このとき僕は、まさか目の前のギャルが「悟りの境地」にいただなんて、知る由もなかったのだ。
第3章 ギャルとの問答
SHIBUYA109前で、ギャルとナンパ師が哲学的問答を繰り広げる、奇妙な日曜日の午後だった。
「だいたい、オネエさん自身が『私はギャルと呼ばれている』と言うんだったら、その『ギャル』は一体なんなのさ! オネエさんの身なりは、ギャルそのものじゃん」
ギャルは首を横に振った。
「いやいや、ギャルという実体は存在しないから。マジウケんだけど」
「だってオネエさんは、エクステつけて、ネイルつけて、派手な肩出しニットを着てるじゃん!」
「エクステとネイルと肩出しニットも、ギャルそのものじゃないじゃん」
ああ言えばこう言う。本当にメンディーなギャルだった。
しかし、ここで逃げれば負けたような気になる。
「エクステ、ネイル、肩出しニット、カラコン、アイライン、つけまつげ! BACKSのショップ袋も持ってるし! あと、香水もドルガバでしょ! どう見てもギャルじゃんか!」
「エクステ、ネイル、肩出しニット、カラコン、アイライン、つけまつげ、BACKSのショップ袋、ドルガバの香水も、ギャルそのものじゃないじゃん」
真昼間に僕は何をしているのだろう。
自分から絡みにいったはずなのに、状況は完全に「僕が特殊なギャルに絡まれる」という様相を呈していた。
「オネエさんはギャルの定義の話をしているの? だとしたら、そんな話は別にどうでもいい! 僕はただ君とお茶したいだけなんだ! 君、名前は?」
「『まりぽよ』だよ〜」
ギャルギャルしい名前だった。
たしかにギャルというのは、定義も持たないふわっとした概念だ。
そうした「記号」で相手を認識してしまったことは、自分でも恥ずべき行為である。
ならば、目の前の「まりぽよ」という個人と向き合えばいいだけのこと。
「君をギャルだって言ってしまったのは申し訳なかった。まりぽよちゃん、僕とお茶しよう! ギャルは実在しないけど、まりぽよは実在するっしょ!」
「『まりぽよ』も呼称・記号・通念で、それに対応する実体は存在しないんだけど〜」
ヤバい。ジリジリと相手の「間合い」に入っている感覚があった。
「ギャル」も「まりぽよ」も実在しないというのだ。意味がわからない。
「何言ってんの? 君はまりぽよなんだろ? そこにまりぽよの身体があるじゃないか!」
「『身体』って、エクステ・マスカラ・巻き髪・ネイル・歯・皮膚・肉・筋・骨・骨髄・腎臓・心臓・肝臓・肋膜・脾臓・肺臓・大腸・小腸・糞便・胆汁・粘液・膿汁・血液・汗・脂肪・涙・漿液・唾液・鼻汁・小便・脳髄を集めたもののこと? それは、まりぽよじゃないよ。ましてや、ギャルでもないし〜」
一体僕は何と話しているのだろうか。ギャルの口から発せられた「胆汁」ほど、胃にキリキリと響くものはない。
もう泣きたい。得体の知れない「何か」が目の前にいたのだ。
やけになった僕は完全に折れてしまった。
「もう君の言ってることは無茶苦茶だよ! ギャルもまりぽよも存在しないって、意味がわからない」
ギャルは口を開く。
「じゃあ、ウチが着ている、one spoの肩出しニット。このニットの毛糸を全部ほどいてみよっか?」